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 社会部事件担当の石井康夫記者が英国社会の深層に迫る。五輪会場の内外に目を向け、現地住民の反応から、ホスト国の社会問題を多角的に取り上げる。

英国民も戸惑い「付加価値税」

ロンドンにあるパスティ店
ロンドンにあるパスティ店

 日本で消費増税が波紋を広げているが、英国でも、ものを買うと消費税に当たる付加価値税(VAT)がかかる。税率は20%で現在の日本の4倍。ただ食料品などについては軽減税率が適用され実質非課税(課税率0%)のため、スーパーの野菜売り場などで安さが実感できる。一方、食料品の中にも「例外」が多く、線引きもあいまいで、たびたび大きな論争が巻き起こる。日本政府はこの「軽減税率」の導入も検討するが、英国民の戸惑う姿は未来の日本を見ているようでもある。

 「10月から、気温より温かい食べ物には20%課税する」。英政府が3月、こんな税制改革案を発表した。標的とされたのが、庶民の味として人気の、肉や野菜を詰めたパイ「パスティ」。73年のVAT導入以来、税率0%だった「国民食」への課税を、財政再建の切り札にしようとした。市民やパン店などから大ブーイングが湧き起こり、キャメロン首相は同案の修正を余儀なくされた。

 英国の軽減税率はとにかく複雑だ。電気料金や暖房などの家庭燃料費は5%、食品や子供服など誰もが生活に必要とされるものは原則0%になる。確かにロンドンのスーパーに行くと、肉や野菜、総菜類は日本より安い印象だが、同じ総菜でも温かいものは20%の税金が課せられる。つまりサンドイッチは「必需品」として0%なのに、調理したてのホットサンドやハンバーガーは、外食と同じ「ぜいたく品」として20%の課税となる。

 通常、税額は値札に含まれるので、海外の人には「物価が高い国だな」で済むが、市民にとって「2割増し」は大問題。五輪観光客でにぎわうロンドン・ユーストン駅前のパスティ店店員は「5ポンド(約625円)と6ポンド(約750円)じゃ大きな違い。毎日来る客だっているんだから」。客の50代女性も「結局(0%と20%の)境界があいまいで、みんな理解してないんじゃないかしら。私は値段だけ見て考えないようにしてる」と戸惑いを隠さなかった。

 日本の消費税が5%から10%に引き上げられることについて、同じ女性に感想を聞いた。「そんなに安いとは知らなかった。日本はロンドンより物価が高いと聞いていたから」と話し、英方式の軽減税率は「まねしない方がいいわよ」と笑った。

 英国の税金をめぐる混乱は、未来の日本を見ているようだ。低所得者への配慮とともに、増税批判のクッション的役割もある軽減税率。導入すれば税収が減る上、何にかけて何にかけないかで、また一騒動は免れない。野田政権は慎重に見極める必要がありそうだ。

 ◆英国の付加価値税(VAT) 1973年の導入当初は税率10%。79年に15%、91年に17・5%、11年に20%に引き上げられた。軽減税率で0%となるのは食料品、水道、新聞、書籍、医薬品、住宅、子供用靴や洋服など。VATはValue Added Taxの略。

 [2012年8月1日9時6分 紙面から]



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