世界中が固唾、フラフラゴール/アンデルセン
<ガブリエラ・アンデルセン(スイス=陸上女子)>
84年ロサンゼルス大会で初めて採用された女子マラソン。優勝したベノイト(米国)がゴールしてから20分後、会場の大観衆、世界中でテレビを見ている人の目に、信じられない光景が飛び込んできた。
トラックに入ってきた赤いユニホーム、白い帽子のランナーが、ふらつきながら「歩いてくる」。右足を引きずり、左手で左足を支え、右へ左へよろめきながら、前に進んでいく。時には顔を覆うように、時には地面に手をつきそうになりながら。心配した係員には、寄らないように頭や手を振る。手助けを受けると失格になる。9万人の大観声の後押しを受けて、競技場に入ってゴールにたどり着くまで約6分間、世界中が固唾(かたず)をのんで見守る中、2時間48分42秒の37位で完走を果たした。
ゴールすると同時に、係員に抱え込まれ、ストレッチャーに乗せられて医務室に直行。明らかに熱中症で脱水症状。血圧が異常に低下し、体温は39度だったという。「死」と隣り合わせの力走だった。後日「あれは最悪のレース。フラフラ歩くところは見たくないです」と話している。