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  1. コラム

コーチの流儀

面談とデータで女心つかむ/真鍋政義監督

10年11月、女子バレー選手権3位決定戦、米国戦で指揮を執る真鍋政義監督

10年11月、女子バレー選手権3位決定戦、米国戦で指揮を執る真鍋政義監督

 日本女子バレーボールが上昇ムードだ。10年世界選手権では32年ぶりのメダルとなる銅メダルを獲得。昨年のW杯は「世界2強」の米国とブラジルにいずれもストレート勝ちし、4位になった。ロンドン五輪では、3位だった84年ロサンゼルス五輪以来のメダルへ期待大。本大会出場権を懸けた5月の世界最終予選(東京)を前に、09年から指揮する真鍋政義監督(48)に迫った。【取材・構成 近間康隆】

 7年前の春、真鍋は戸惑った。男子の強豪新日鉄(現堺)や日本代表でセッターとして活躍し、41歳で現役引退。そのまま女子Vリーグ久光製薬の監督となった。男子チームの監督経験はあったが、女子の指導は初めて。指揮官の意気込みは、空振りから始まった。

 真鍋 初日、みんなの前で自分の思いを告げました。普通、話をしたら相づちを打つでしょ? でも、シーンと目が死んでいる。途中で話すのをやめました。何を考えているのか分からなかった。そこから、女子を指導している中学や高校の先生に聞いてね。女性は違うと。頭ごなしに言うんじゃなく、しっかりコミュニケーションを取れと言われましたね。

 まずは1人ずつ面談した。そこでセッター真鍋の本領が発揮された。「スパイカーの性格を見るためずっと観察してましたから。面談するとだいたい性格が分かりましたね」。久光製薬での4年間でリーグ制覇2回、準優勝1回。06-07年の優勝は、前女子代表監督の柳本晶一以来2人目の「男女チーム優勝監督」だった。現在も毎年、代表始動は面談から入る。

 30歳から6年間、新日鉄で選手兼任監督を務めた。戸惑いから始まった女子の指導だが、真鍋は「団結力」を強さに挙げる。

 真鍋 人間関係には神経を使ってます。モチベーションが上がったり下がったりが激しい。女性はグループなんですよ。だいたい偶数で行動する。チームの中で人間関係が崩れるとズルズルと非常に波が大きい。でも結束すれば、男性よりもチーム力が3倍、5倍になるんです。

 昨年のW杯。真鍋は右膝を手術したばかりの山本愛(JT)を帯同した。練習すらできなくても、チームに欠かせないという判断。「明るいし、目に見えない効果、潤滑油になった」山本は、ベテランと若手をつなぐ盛り上げ役となった。故障で主力を欠いた大会は終盤に盛り返して4位。大会中は気が合うメンバーを相部屋にするなど、ムードづくりには配慮する。

 試合中はiPad(アイパッド)を手にする。データを駆使した「IDバレー」と呼ばれるが、実は苦肉の策から生まれたものだった。

 真鍋 IDって言われますけど、コテコテのアナログ人間です。ただ、最初にデータで明確にしようと思ったのは久光の時。女性特有のねたみ、嫉妬があってややこしく、本当にじゃまくさいと思った。毎日データを取って「練習でいい選手を使う」と全部オープンにして。アナリストが前日の練習の数字を大きい紙で張り出して、目標設定数値より下は赤で書く。毎日が試験です。女性は非常に嫌がりますけどね。

 36歳の時、周囲の猛反対を押し切って新日鉄からイタリアリーグへ移籍した。旭化成の選手だった40歳で「自分のトスワークはどうだったのかセッター分析をしたい」と大体大大学院に入学。久光製薬の監督は、オファーのあった4つから「指導したことない」と唯一の女子チームを選んだ。オーバーハンドパスを勉強したい、と9人制のチームを見に行ったこともある。

 新日鉄での青年監督時代は、ミュンヘン五輪金メダリストで元男子代表監督の故中村祐造から王道をたたき込まれた。毎朝8時半から1時間、「日本一になるには」「世界のバレーとは」の講話。4年ほど続いた。「当時はすごい重圧だったけど、本当にすごい僕の財産」。

 昨年大みそかに亡くなったミュンヘン五輪監督の松平康隆からは、「遺言」を授かった。32年ぶりにメダルを獲得した10年世界選手権直後。「これで初めて世界一に挑戦できるな」と激励された。「選手が本当に世界一になれると思うはず」と精神面の変化を予告しながら、同時に「世界一になるためには、少なくとも5つの世界一を作れ」と宿題を与えられた。

 真鍋 名誉会長(松平)はセッター竹下と木村のサーブは世界一、リベロの佐野が世界2、3番で今は2つ半やと。その発想がすごいですよね。そこからデータを全部分析した。そしてサーブとサーブレシーブ、ディフェンスを世界一にしようと。この3つはずっと言ってるでしょ? そこで世界一になれば、チームも世界一になれる。あと「団結力」で6つ目ですね。

 海外遠征では「世界一になるには世界トップのものを」と、世界3大美術館や世界3大サーカスを観賞させた。選手の感性を磨きながら高めてきた世界一への意識。5月の五輪世界最終予選、そしてロンドンでの戦いへ、真鍋は「僕はプラス思考なんで大丈夫」と豪快に笑う。緻密なデータと優れた洞察力から生まれる細やかな気配り、そして周囲を安心させる笑顔。「東洋の魔女」が復活してきたわけは、ここにある。(敬称略)

 ◆真鍋政義(まなべ・まさよし)1963年(昭38)8月21日、兵庫・姫路市生まれ。白鷺中でバレーを始め、大商大高でセッターに転向。大商大4年時に代表初選出、85年W杯出場。新日鉄で日本リーグ時代3度優勝。88年ソウル五輪出場。新日鉄の選手兼監督として96、97年にVリーグ連覇。99年にイタリアのパレルモへ移籍。旭化成や松下電器でプレーして05年に現役引退。久光製薬の監督として06-07、08-09年のプレミアリーグ、06、07年の黒鷲旗で優勝。09年4月に女子代表監督に就任した。家族は夫人と1男2女。

(2012年3月6日付、日刊スポーツ紙面より)

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