＜ジム・ハインズ（米国＝陸上男子）＞

　６８年メキシコ大会で、陸上史に輝く記録が２つ生まれた。標高２２００メートルの空気が薄い高地大会だったから、という人もいるが、他の選手にはできなかったのだから、それがすべてとはいえないだろう。快挙の１つが１００メートル。１０秒の壁が、ついに破られた。

　決勝に並んだ８人は、五輪で初めて全員が黒人選手。下手といわれたスタートで２コースから「生涯最高のスタート」で飛び出し、横一線から５０メートル過ぎで抜け出した。電光掲示板に「９・９」がともる。この瞬間のことを、後に「雲にも上る気持ちだった」と話している。タイムは９秒９５と認定され、電動計時で初めて１０秒を切った。このころは電動計時が採用されていたが、故障に備えて手動計時も行っていた。大会４カ月前の全米選手権でハインズら３人が手動で初めて９秒９を記録したが、電動計時は１０秒台だった。

　４００メートルリレーでも世界新で金メダル。自身が「あこがれの選手」という６４年東京大会１００メートル金メダルのボブ・ヘイズの後を追うように、大会後ドラフト指名された現ＮＦＬドルフィンズに入団。快足は生きず、２年で引退した