コベントリー、「なでしこ」で街おこし
コベントリーの中心部の広場には巨大な垂れ幕が飾られ「開幕」ムードを盛り上げていた
石井康夫記者がロンドン五輪の光と影を伝える現地ルポの第1回。ロンドンから北西部にある都市コベントリーは、今日25日(日本時間26日未明)に行われる女子サッカーなでしこジャパンの初戦を前に“特需”への期待で盛り上がっていた。市庁舎には出場各国の国旗が飾られ、中心部の広場には巨大な垂れ幕がはためく。27日の開会式を前に、はや五輪ムードは全開だ。静かな歴史の街にもなでしこがフィーバーを運んできた。
ロンドンから電車に揺られること約1時間。英国中部コベントリーは今日25日の「開幕」を前に、早くも五輪タウンと化していた。事実上の五輪競技の“開幕戦”となる場所だけに、駅を出るとすぐに「ウエルカム コベントリー」の文字が目に飛び込んできた。活気づいた街の中心部では、通りのいたるところに五輪ののぼりが立ち、買い物客らが広場に飾られた巨大な垂れ幕を仰ぎ見ていた。
世界各国からの観光客も続々と到着し、街ではさまざまな言語が飛び交っていた。それを当て込んでか、セールを催す商店もあった。サブ開催地として、五輪準備に奮闘してきた市担当者のガレス・ルイスさん(36)は「準備はオーケーだ。水曜日のキックオフが待ち遠しい」と目を細めた。
ルイスさんによると、市民の10人中9人は、五輪が地元の観光に好影響を及ぼすと考えているという。特に開幕カードに登場するなでしこへの注目度は現地でも高い。「世界で一番成功している女子チーム。この試合のチケットはよく売れているので、スタジアムはほぼ埋まるのではないか」と期待。世界一集団のなでしこの名は、人口30万の地方都市にも浸透していた。
コベントリーは中世、イングランドで最も栄えた歴史ある街だが、今では首都ロンドンと第2の都市バーミンガムにはさまれ、やや地味な存在。タクシー運転手のアリ・ズフィカさん(45)は「普段は日本人はあまりこないけど日本は金メダル候補だから、多くの観光客がくるだろう。たくさん乗ってほしいね」と、“なでしこ特需”に期待した。別の運転手も「今のうちに日本語を教えといてくれるかい?」と貪欲だった。
市では多くの観光客らに対応するため、警備員の他に地元の若者を中心に約300人を動員。期間中はコベントリー大学や広場などで、パブリックビューイングやコンサートなどのイベントも計画。「本場」ロンドンに負けない盛り上がりを演出する。
キックオフは現地時間午後5時から。飲食店の男性店員は「世界チャンピオンの試合だから」と、仕事が終わったら観戦に行くという。当日は日本人サポーターも続々と詰め掛ける。いつもは静かな歴史の街コベントリーを、なでしこが開幕から一気にヒートアップさせることになりそうだ。
<コベントリーあらかると>▼人口 約30万人。古くからイングランドの中心的な街として栄え、産業革命後は自動車産業など工業都市として発展。
▼伝説 コベントリー領主である夫が市民に重税を課すのを見かね、裸で馬に乗り街を練り歩いたゴダイバ夫人の伝説が有名。ベルギーのチョコレート会社「ゴディバ」は夫人の名が由来。市中心部の広場にはその様子を伝える銅像も。
▼シンボル 新旧のコベントリー大聖堂。旧聖堂は第2次世界大戦時、ナチスドイツの空爆で破壊された姿がそのまま残され、戦後、その隣に新聖堂が建て直された。
▼スタジアム イングランド2部、コベントリーの本拠地。05年に日本企業リコーが命名権を獲得し、正式名称は「リコー・アリーナ」。五輪期間中は「シティ・オブ・コベントリー・スタジアム」と呼ばれる。
◆石井康夫(いしい・やすお)1991年入社。44歳。東京都台東区出身。早大卒。東北総局、整理部を経て、現在は文化社会部で事件担当キャップ。趣味は読書、釣り。好きな歌手は、松田聖子、ホイットニー・ヒューストン。社内でのニックネームはチャーリー・ブラウンに似ていることから「チャーリー」と呼ばれている。