「和」よりも強い「絆」
女子レスリングで金メダル2個。48キロ級の小原も、63キロ級の伊調も「姉妹でとった」と言った。姉に励まされ、妹に背中を押されての快挙。ともに八戸出身で大学の先輩後輩。伊調は会見で「日登美先輩との絆が深まった」と口にした。
「絆」。今大会のキーワードでもある。もともとの意味は「犬や馬をつなぎ留める綱」。ネガティブなイメージもあるが、昨年3月の東日本大震災以来「人と人との固い結びつき」として受け入れられた。「姉妹の絆」「家族の絆」「仲間の絆」。昨年1年を代表する漢字にも選ばれた。
日刊スポーツのデータベースを調べると、昨年3月11日までの1年間でヒットするのは78回。それが震災から1年で10倍の764回使われている。誰もが「人と人の結びつき」を意識した。もちろん、日本代表選手たちも。11個のメダルを手に帰国した競泳陣も「チームの絆」を強調した。
今大会目立つのは、チームや団体の活躍だ。アーチェリー女子が銅メダルを獲得し、卓球女子、フェンシング男子、体操男子が銀。競泳は男女のメドレーリレーでメダルに輝いた。バドミントンの女子ダブルスも含め「1人でとれない」メダルがすでに7個ある。
女子サッカーが早々と銀以上を決め、メダルに挑む男子サッカーと女子バレーを合わせれば、10個に届く可能性もある。野球とソフトボールがあった前回大会でも4個、これまで最多は04年アテネ大会の7個だから、更新は間違いない。
チームや団体は1カ国1ずつだから、複数選手が出場する個人種目よりはメダルが取りやすい。しかし、好調の原因はそれだけではない。4人のタイム合計でメダル圏外だった競泳のリレーは、選手たちが「チーム力」を口にした。「チームワーク」や「組織力」でなく「チーム力」。人と人との結びつきで生じる新たな力。そこには「和」よりも強い「絆」を感じた。
大会も残りわずか。「震災からの復興」「日本に勇気を」というテーマから考えれば、「日本」が勝つことで成果はあがったように思う。「1人で戦うのではなく、力を合わせて戦う」ことの大切さを、多くの選手が教えてくれたからだ。【編集委員・荻島弘一】