大切なのはどんな5位か
日本のシンクロが、84年大会以来8大会目で初めてメダルを逃した。予想されていたことだから、驚くことはない。昨年の世界選手権も5位。それが、今の日本の定位置ということだ。
「最初から順位は決まっているの?」には「はい」と答えるしかない。採点競技で、ミスも起こらない。転倒などがあれば大減点だが、今まで選手がおぼれたのは見たことがない。当然ながら、評価が突然変わることもない。北京から4年間の国際大会で得た評価、その集大成となるのが今大会だ。日本の5位は今回の演技の結果ではなく、この4年間の世界の評価だ。
なぜ、日本はメダルから遠ざかったのか。指導者の流出は大きな要素だ。04年まで日本代表を指導した井村雅代コーチは今回も中国代表ヘッドコーチ。米国代表の藤木麻祐子コーチは、強豪スペインの基礎を作った。「コーチが得点を持っている」と言われるから、指導者育成は急務だ。
練習量を指摘する人もいる。日本は、1日8時間以上もプールの中というハードトレーニングを武器に戦ってきた。酸欠で「死にそうになった」という選手もいた。演技を見ても「難しい技での同調性」という点では確かに強豪に劣る。
もっとも、世界での成績に浮き沈みがあるのは普通のこと。日本は過去7大会でメダルを12個も獲得している。もちろん、世界最多(2位は米国で9個)。米国、カナダからロシア、スペインに上位が移る中、常にメダル争いをしてきた栄光の過去はあるのだ。
大会前、本間三和子シンクロ委員長に意地悪な質問をしてみた。「メダルを狙うと言っても、現実は5位でしょ?」。84年ロサンゼルス大会銅メダルの元名選手は「大切なのはどんな5位か。少しでも4位との差を詰めること。審判の1人にでもカナダより上位に見てもらうこと。それが次につながるのよ」。メダルへの道は長くて、険しい。一瞬の頑張りだけでは順位が変わらないからこそ、奥が深い競技なのだと思う。
ところで、今大会のテレビ放送では、演技と水中が同時に見られる映像が流れる。「優雅な白鳥は、水の中で懸命に足を動かしている」のがシンクロなのに、全部を見せるのは少し興ざめ。美しい部分だけを見ていたいというのは、ロマンを求めすぎだろうか。【編集委員・荻島弘一】