グチャグチャ元祖は東京
五輪のたびに、閉会式は感動的だ。ジョン・レノンの「イマジン」が流れる。65歳のブライアン・メイ、68歳のロジャー・ダルトリーが登場する。選手たちにとっては「懐メロ」だろうけど、ど真ん中世代としては「英国」を感じた。最後は予想通り71歳のペレ。サッカー界の王様は、今も変わらずブラジルの顔だ。
これから始まる競技への高揚感にあふれる開会式もいいけれど、閉会式はまったく違った良さがある。整然とした開会式の入場行進と違って、全選手が入り乱れて競技場に入ってくる。国籍や人種や宗教を超え、世界が1つになる瞬間。その姿に五輪の素晴らしさを見て、胸が熱くなる。
今の閉会式のもとになっているのは、48年前の東京五輪だという。64年10月24日、国立競技場は曇り空だった。午後5時、各国旗手が国旗を手に入場する。米国のショランダー(競泳)エチオピアのアベベ(マラソン)ら大会のスター選手が行進する。この日に英国から独立したザンビアに続いて開催国日本が入った直後、ハプニングが起きた。
閉会式の入場は、56年メルボルン大会から国別ではなく自由に行われていた。東京大会も自由行進が予定されていたが、それでも係員が選手たちを入場前に整列させる手はずだった。ところが、気持ちが高まった選手たちは係員の制止を無視。一斉に競技場になだれ込むと、日本の旗手の福井誠(競泳)、ザンビアの旗手を次々と肩車。突然の出来事に、式典担当者は大慌てになったという。
これが、7万観衆と衛星中継を見ていた世界の視聴者に感動を呼んだ。至る所で選手の交歓会が始まる。ニュージーランド選手は天皇陛下の前で「最敬礼」し、ウォークライまで披露。「ほたるの光」が流れても選手は退場しようとせず、結局1時間の予定が15分も延長された。選手が「グチャグチャ」になる今の閉会式の始まりだ。
閉会式の翌日、作家・石原慎太郎氏が日刊スポーツに手記を寄せている。「冷たいほど整然としていた開会式に比べ、心躍る」と書き「聖火は消えず、ただ移りゆくのみである」と。4年後、聖火はリオデジャネイロに移る。そして2020年、聖火は石原都知事を先頭に招致活動を展開する東京に移ってくるかもしれない。【編集委員・荻島弘一】(おわり)