「日刊、元気そうだな」えっ朝青龍
暗闇でゴツイ大男が寄ってきた。照明の落ちたレスリング会場、両手に荷物を持っているのに「日刊、元気そうだな」とハイタッチしてくる人がいた。そんなに元気じゃないんだけど…と思って見上げると、元横綱朝青龍のドルゴルスレン・ダグワドルジさんだった。今はモンゴルのレスリング協会名誉会長で、チーム団長でもある。
年上への「上から目線」も変わらないなあと、なぜかうれしくなった。現役時代は決して良好な関係だったわけじゃない。高砂部屋のけいこ場には本紙が置いてあった。批判した日の朝げいこ後は、「おい日刊!」と呼び出された。新聞を口に突っ込まれた同僚もいる。インターネットに「朝青龍批判の急先鋒(せんぽう)」と名前を挙げられたこともあった。
そんな同氏が「いろいろあったな。懐かしいな」と握手してきた。なぜ、そんなことを書くのかというと、負けて泣くなでしこジャパンに寄ってきた人がいた。相手の米国エース、FWワンバックだった。競うように歓喜のスタンドへ走る米国選手の列から外れ、1人1人に握手を求めていた。昨年のW杯は、逆の立場で宮間選手が同じことをしていたが、スッと心が洗われた。
「朝青龍対日刊」と同じ土俵に上げちゃいけないけど、お互いを尊敬するのもスポーツの良さだと思う。ダグワドルジ氏も言っていた。「負けるのも1つの勉強だ」と。そういえば、負けて暴言をはいたり、審判をにらんでいた横綱がいたっけな。そんな感情をあらわにするアスリートも少なくなったなあ…と、センチメンタルになったロンドンの夏でした。【近間康隆】