悔し涙を笑顔に変えた…ノリさんの人間力
試合後、大野忍(左)をねぎらう佐々木則夫監督(撮影・松本俊)
五輪女子サッカーで、なでしこジャパンは銀メダルとなったが、昨年のW杯に続いての素晴らしい戦いで、あらためて佐々木則夫監督(54)の指導力に注目が集まった。かつての小学校同級生や、元勤務先の同僚に佐々木監督の「人間力」について聞いた。律義で、素直で、冷静なリーダー像が見えてきた。
決勝戦が終わった後の10日午前8時ごろ、山形県尾花沢市に住む小林正宏さん(53)の携帯電話が鳴った。佐々木監督からだった。「地元のみんなにありがとう、と伝えてほしい」と力を込めたという。「この心遣いがノリオだよ」と小林さんは話した。佐々木監督とは尾花沢小1年の時に8カ月だけクラスメートだった。佐々木監督は父の仕事の都合で転校していった。けれど、その後も親交は続いていた。
小林さんは「佐々木則夫尾花沢後援会」の事務局長を務めている。大きな試合の時は、終了するたびに電話が入った。「いつもみんなにありがとうって伝えてくれって電話をかけてくるんだ。ただ、今回のロンドン五輪は1次リーグのスウェーデン戦、南アフリカ戦のあとはなかった。ノリオも相当の重圧だったんだろう。それでもさ、銀メダルを取った後は、ちゃんと電話はしてくれたのさ。うれしいよ」と小林さん。小林さんが「完全燃焼か?」と聞くと「あぁ」と感慨深げに返してきた。「『金』より『良』いのが『銀』だべ」と言うと「そうだなあ、あはは」と笑ったという。「重圧から解き放たれたのか、すがすがしい声だった」と小林さんは感じた。
佐々木監督が、初めてなでしこのコーチになった06年、チームドクターだった山藤賢(さんどう・まさる)さん(39=昭和医療技術専門学校学校長)は、試合終了直後は号泣していた選手らが、その後の表彰式では手をつなぎ笑顔で喜んでいる姿を見て「これがノリさんの人の心を動かす力だ」と説明した。
山藤さんは「ノリさんは、知らず知らずのうちに人を動かす天才。よく『選手に任せているから』と話すけれど、常に素直で思ったままを選手にぶつけている。選手はノリさんの影響を受けるのか、みんな素直に自ら動く。主将の宮間は試合が終わると今でも給水用のペットボトルを片付ける。そういうことにも波及していると思う」という。
佐々木監督はNTT関東の新人時代は料金滞納者の対応を業務としていた。当時、同僚でNTT-ME副社長の佐藤謙一さん(54)は「どうして払ってくれないのか、相手の話を最後まで聞いて、話して、最終的に入金させる。頭がいい」と力説した。「ビジネスマンとしての能力もかなり高い。普通の上司は上から目線で部下に接するけど、彼は違う。横から目線で即座に部下の課題を察知する。でも、同時に全体を見渡していて、常に頭の中で戦略を考えている」と話した。浮かれず、冷静で全体を見渡せる力。佐々木監督の「人を動かす力」が選手たち個々の力とあわさって、なでしこはロンドンで再び花を咲かせた。【寺沢卓】