近代5種初の女子代表黒須は両利き
近代5種ロンドン五輪代表の、左から富井、山中、黒須
両利きアスリートが「キング・オブ・スポーツ」の上位を目指す。近代5種のロンドン五輪代表男女3選手が13日、都内で会見。日本の女子として初めて出場する黒須成美(20=東海東京証券)は、父秀樹さん(49)の指導により、本来の利き腕の右だけでなく左も使える。東日本大震災の影響で拠点を移した韓国・釜山で男子選手にもまれ、レベルも向上。同じ女子代表の山中詩乃(21)と上位入賞を競い、「近代5種」のメジャー化に挑む。
写真撮影で、フェンシングの構えで突き出した黒須の腕は左だった。生まれついての利き腕ではない。物心つくころから、近代5種の選手だった父秀樹さんに“矯正”されてきた。おかげで「歯磨きは左手でしかできない。でも、おはしを持つのと字を書くのはどちらでもいけます」。右手と左手、どちらも器用に使いこなせる両利きの完成。「近代5種は、両手を使えると有利なんです」と笑った。
フェンシングから始まる近代5種。最初の剣を、黒須は左で操る。「左利きの選手は少なく、すごく有利であっさり勝てる。あっさり負けることもありますが」。優位を生かしてここで得点を重ねるのが戦法だ。
水泳と馬術をこなし、最後の射撃と3000メートル走のコンバインドへ移ると、次は両利きの利点が生きる。レーザー銃を持つ手は右。「フェンシングで使っていないので、そんなに腕が震えない」。その分、的を射抜く時間を短縮できる。今回の五輪に出場する全36選手の中で両利きは2人だけ。大きな武器になる。
昨年の東日本大震災で地元茨城・下妻の練習場が被災。旧知の朴正七(パク・ジョンチル)コーチ(40)に誘われ、拠点を韓国・釜山に移した。10年アジア大会王者を含む男子15人の中に、1人加わった女子。「つらいけど、歯を食いしばってやっている」。練習は1日9時間。体脂肪は3・5%も落ちた。震災直後に誘った朴コーチは「成美には強い気持ちがある。面倒を見たかった。世界と戦える力がある」と力説した。
日本女子の競技人口は5人とされ、競技力は低い。だが「近代5種というすごい競技を知ってもらいたいです。自分が活躍して、後からついてきてくれるよう頑張りたい」。日本女子初の五輪の舞台。希少な両利きアスリートが、野望を持って挑む。【今村健人】
◆黒須成美(くろす・なるみ)1991年(平3)10月22日、茨城県下妻市生まれ。上妻小6年で父秀樹さんの教えで近代5種を始める。下妻中3年時の06年アジア選手権5位。国内開催だった07年の北京五輪予選を兼ねたアジア選手権は、銃刀法の規制で出場が危ぶまれたが、特例で参加。ただ馬術競技で時間切れとなるなど16位に終わり、出場を逃した。10、11年全日本連覇。家族は両親と兄、妹。159センチ、52キロ。
▼近代5種とは? フェンシング(エペ)水泳(200メートル自由形)馬術(障害飛越)の3種目で得点を争い、4ポイント1秒でタイムに換算。最後のコンバインド(3000メートル走+射撃)は上位からスタートしてゴール順が最終順位となる。男子は1912年ストックホルム五輪から、女子は2000年シドニー五輪から正式競技に採用。1カ国・地域から最大2人が出場でき男女各36人で競う。W杯などの国際大会と違い、五輪は予選がなく一発勝負。