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現地レポート 五輪の光と影 五輪コラム 現地レポート 五輪の光と影

 社会部事件担当の石井康夫記者が英国社会の深層に迫る。五輪会場の内外に目を向け、現地住民の反応から、ホスト国の社会問題を多角的に取り上げる。

8万円ホテル避け 1200円テント村

キャンプと五輪を同時に楽しむ英ウェールズのクルークさん一家
キャンプと五輪を同時に楽しむ英ウェールズのクルークさん一家

 ロンドン郊外の臨時キャンプ場に、世界各国からの五輪観光客が寝泊まりする「多国籍テント村」があった。宿泊客のほとんどが市内のホテル料金の高さを敬遠。キャンプ場は1人1泊10ポンド(約1250円)で、格安に五輪を楽しめるところが人気の秘密だという。一方、一時4倍を超える宿泊料の“つり上げ”が話題となったホテルは、大会が後半戦に突入した今でも空室が目立つ状況。通常価格まで一気に値下げしたホテルも多いが、部屋が埋まるメドは立っていない。

 五輪スタジアムのあるストラトフォードから地下鉄で3駅。住宅街の中にある広大なラグビー場に、色とりどりのテントが並んでいた。その数、300張り以上。それぞれのテントの前には米国やカナダ、フランス、スペインなど自らの出身を示す国旗が飾られ、にぎやかな雰囲気だ。

 キャンプ場の管理担当デービスさん(45)によると、宿泊しているのは英国各地から集まった五輪ボランティアと、世界各国からの観光客。500人の制限人数がほぼ埋まっている状態という。クラブハウスには大型テレビ2台が設置されており、夜は中継を見ながらみんなで盛り上がる。もちろんトイレとシャワーも完備。開会式の日は30畳ほどのフロアがキャンプ客でいっぱいに。デービスさんは「お祭り騒ぎだったよ」と笑った。

 テントサイトをのぞくと、英ウェールズのリチャード・クルックさん(45)が家族4人でくつろいでいた。「陸上とホッケーを見に来たんだ。ここではいろいろな国の人と顔を合わせるので面白い」。仲間とテントを張っていたベルギーのミハイル・スミッツさん(27)も「ロンドンのホテルはどこも高い。ここは安いし楽しそうだ」と話した。1泊10ポンドはテント持ち込みの場合で、張ってあるテントを使用する場合は25ポンド。

 もともとこの臨時キャンプ場は、五輪組織委が市内ホテルの客室不足を懸念して設置したもの。ところが、現状ではキャンプ場が大盛況で、ホテルががらがらという逆転現象が起こってしまっている。臨時キャンプは複数あるという。

 地元メディアによると、今年の初めごろから五輪客を見込んでホテルの宿泊料が高騰。一時通常価格の4倍以上の値段で予約を取るホテルもあったという。一般的なホテルの2万円の部屋が8万円なのでかなり高い。これには滞在をあきらめる観光客が続出し、大会直前の予約状況は昨年同時期の3割減だった。危機感を感じた各ホテルは一気に値下げに踏み切るが、時すでに遅し。五輪が後半戦に入った今も、空室が埋まるメドはたっていないという。

 審判員らを運ぶ運転手としてボランティア参加している英サリー州の男性(54)も逃避組だ。「キャンプ場がオープンするまではホテルに泊まっていたが、料金が高すぎるので移った。ここの方がよほど居心地がいい」。いまさら値下げしたところで、ホテルに戻るつもりはないという。

 「便乗値上げ」したばかりに、多くの観光客に見切られてしまったロンドンのホテル業界。閉会まで客を取り戻すのは、どうやら難しそうだ。

 [2012年8月8日8時38分 紙面から]



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