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 社会部事件担当の石井康夫記者が英国社会の深層に迫る。五輪会場の内外に目を向け、現地住民の反応から、ホスト国の社会問題を多角的に取り上げる。

再開発進む中心部と何も変わらぬ貧困層

ロンドンの景観を一変させた高さ310メートルの「シャード」
ロンドンの景観を一変させた高さ310メートルの「シャード」

 ロンドン橋近くのテムズ川南岸に、ひときわ目立つ建物がある。欧州一の高さを誇るロンドンの新名所「シャード」(高さ310メートル、来年2月開業)だ。当初は景観を崩すとの反対意見も出たが、五輪期間は連日多くの観光客が写真撮影する姿が見られるなど、変わりゆくロンドンの象徴として定着しつつある。一方、中心部を離れれば、昨夏の暴動で焼かれ、1年たっても傷痕が癒えぬままの建物が多く残る。地元からは「若者の不満は消えていない。五輪が終わった後の反動が怖い」の声があがる。

 テムズ川沿いにそびえ立つ「シャード」のふもとに立つと、巨大さに圧倒される。全面ガラス張りの87階建ては、低く古い町並みが続くロンドンでは浮き上がって見える。携帯のカメラで写真を撮っていたロンドン在住の会社員男性は「最高だよ。『新しいロンドン』の象徴だ」と話した。

 五輪開幕直前の7月初旬に外観が完成し、開業は来年2月。最上階にある展望台にはすでに1万人以上の予約が入っている。東部を再開発して造った五輪パークをはじめ、前述の男性は「ロンドンが活気づいてきた」と胸を張る。高層ビルが続々と建ち始め、「100年たっても景観の変わらない都会」と言われたロンドンが、五輪を機に姿を変えようとしている。

 一方、昨年の英暴動で大きな被害が出た西部イーリングの町を歩くと、いまだに焼け残った建物が放置されたまま。その傷痕はあちこちでみられる。暴動は昨年8月、ロンドンで警官による地元男性の射殺に抗議した群衆の一部が暴徒化。5人が死亡、4000人以上が逮捕された。地元に住む女性は「近くで68歳の男性が殺された。当時は誰もが戸を固く閉め外出しなかった。今でも思い出すと怖い」と振り返る。

 同じく暴動の激震地の1つ、東部ハックニーのように、若者の3人に1人が失業中という深刻な地区もある。同地の商店主は「五輪は我々に何ももたらしてはくれない。不満は解消されたわけじゃない」。英メディアも「ロンドンの若者の25%はまた暴動が起こると考えている」と伝えている。

 中心部の再開発が着々と進む一方で、変わらない生活に苦しむ貧困層。この構図は変わらないまま始まり、幕を閉じるロンドン五輪。「五輪自体は成功だったといっていいが、その経済効果は結局は富裕層に向かうだけだ。反動がきっとくるだろう」。地元紙に勤める男性の警告が印象的だった。(おわり)

 [2012年8月13日8時36分 紙面から]





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