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コラム Nikkan Olympic Column
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 荻島弘一編集員による日々の話題、トピックスなどを取り上げる社会派コラム。これまでの取材経験や過去の五輪取材などを絡め、批評や感じたことなどを鋭く切り込む。

天国の桜井さん清水と村田がやりましたよ

 世界ランク2位の村田諒太(26=東洋大職)が7日、メダルをつかんだ。5日にバンタム級で清水聡(自衛隊)が同競技44年ぶりの表彰台を決めており、日本勢の複数階級メダル獲得は五輪史上初。その大躍進の裏には解禁されたプロアマ交流があった。

 日本唯一のボクシング五輪金メダリスト、桜井孝雄さんに会ったのは昨年10月だった。ちょうど、村田が金メダル候補として注目を集めだしたころ。「久しぶりに楽しみですね」と聞いたら、意外な言葉が返ってきた。「金なんか無理。メダルもダメだよ」。そう言って寂しそうに首を振った。

 「プロとアマがねえ。関係が良くならないと」。すでに両者の関係改善は始まっていたが、桜井さんは信じていなかったようだ。この話になると、言葉をにごした。こちらも、質問に窮した。「まあ、いろいろ大変だな」。取材メモには、素っ気ない言葉が並ぶ。

 桜井さん自身のつらい経験があった。中大4年の東京五輪で金メダルを獲得。プロは激しい争奪戦を繰り広げた。1度は「プロに行かず、大学に残る」と発表されたが、スポーツ紙が「三迫ジム入り」を1面でスクープ。大学側は激怒し、ボクシング部からは除籍。OB会名簿に載ることもなかった。

 実は五輪を前に、すでに三迫ジムで練習していた。「秘密だった。ばれたら代表からも外されていた」。プロ入りで、アマから「裏切り者」扱いされた。プロでも好成績は残したが「殴り合い」を避けるディフェンス重視のスタイルが受け入れられず、世界挑戦も失敗。「しょせんアマ出身」と陰口をたたかれた。

 桜井さんはアマとプロの「陰の協力」があったからこそ金メダルに輝いた。しかし、どちらの世界からも1歩引いた存在にならざるをえなかった。五輪唯一の金メダリストなのにだ。だからこそ、アマボクシングの将来を心配した。「今のままじゃメダルは無理」の言葉は、期待半分、あきらめ半分だったと思う。

 今年1月、桜井さんは帰らぬ人となった。取材をしてからわずか2カ月。長男の大佑氏によると、取材した時には「余命宣告」も受けていたという。告別式で金メダルや数々の賞状など思い出の品とともに飾られた日刊スポーツの「最後の記事」は、桜井さんの「遺言」だったと勝手に思っている。「プロとアマが手を組まないと」。その言葉に込められた五輪メダルへの思い。天国の桜井さん、清水と村田はやりましたよ。

 [2012年8月8日10時10分 紙面から]





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