日刊スポーツのニュースサイト、ニッカンスポーツ・コムです。



コラム Nikkan Olympic Column
秘技解剖~五輪メダル候補に迫る~ 五輪コラム

秘技解剖~五輪メダル候補に迫る~

 人とは違う「武器」が、メダル獲得への切り札になる。「五輪メダル候補に迫る 秘技解剖」では、選手の必殺技や秘密兵器を紹介していく。

抵抗減、推進増!日米融合泳法/競泳・北島康介

抵抗の少ない北島の蹴り
抵抗の少ない北島の蹴り

 ロンドン五輪で3大会連続の2冠という偉業に挑む北島康介(29=日本コカ・コーラ)。4月の日本選手権では、100メートルで58秒90の日本記録を樹立し、200メートルでも今季世界最速の2分8秒00で優勝した。3年前までのラバー性「高速水着」時代の記録を塗り替え、しかも身体的なピークを過ぎた29歳7カ月という年齢を考えれば驚異的なタイムだ。その「進化」の理由とは-。そこには、日米を股に掛ける北島ならではの「良いとこ取り」が見えた。【取材・構成 佐藤隆志】

 抵抗力を下げる日本流に、出力を大きくする推進力の米国流。北島は、日米の異なる泳ぎ方をうまく融合させ、進化を遂げた。

 長年、平井伯昌コーチのもとで培った泳ぎは、水の抵抗を小さくし、少ないストローク数で大きく距離を稼ぐものだった。それが09年からの米国生活を経て、変化が表れた。キックよりも上半身のパワーに重点を置き、手のかきは必然的に増えた。

 国立スポーツ科学センター(JISS)で映像分析を担当する岩原文彦氏が言う。「もともとパワーでガンガン泳ぎたい方。それを平井さんが『ドウドウ』と手綱を引いていた」。転機は昨年の世界選手権だ。100メートルでダーレオーエンに完敗し、200メートルは最後に失速して金を逃した。そこでエネルギー効率よく泳ぐため、本来持つテクニックを意識。それを示すかのように、昨年4月の国際大会選考会と今回の日本選手権では明らかな変化が出たという。いわゆる「浅蹴り」だった。

 岩原氏 より水平に浅く蹴ることで抵抗を減らしている。足をぐっと引くと太ももが立つのでブレーキになる。だからスッと引いたら早めに蹴る。一方、アメリカ流はスピードを出したいとなると、足をしっかり引いて蹴るんです。

 つまり米国でやっていたのは、自転車を1回1回、思い切りよくこいで、そのつどブレーキをかけるようなものだ。1ストロークごとのトップスピードは上がる半面、減速にもつながる。エネルギー効率から言えば、燃費の悪い泳ぎ方だ。だが北島は水面に対して、体をフラットに保つ技術に秀でており、水流の乱れが起こりにくい。車に例えるなら、ウイングを使ってダウンフォース(下への力)を利かせた「F1マシン」のようだ。蹴り足が下がらず、水平に出せることで、大きな推進力につなげている。

 これには北島の身体的な特長が生かされる。平泳ぎは唯一、4泳法の中でキックを下に打たず、真後ろに蹴る。ひざを曲げ、床の反発力を生かして跳び上がる垂直跳びの原理だ。北島を指導するJISSトレーナー小泉圭介氏が説明する。

 小泉氏 ほかとは格段にジャンプ力が違う。ふくらはぎがギュッと上がって、下が細い。大半の選手がボテッと大根のようだけど、北島はNBA選手のようなふくらはぎをしている。

 つまり強靱(きょうじん)な瞬発力が「浅蹴り」を可能にしていた。

 ただ、キックが進化の理由ではない。体に負荷をかけてガンガン泳ぐ米国式練習法で、上半身が強くなったのも一因だ。小泉氏は「足をきかせるためにはプル(手のかき)が強くなければいけない」。そして北京までとは違い、今やストローク数へのこだわりはない。「推進力があれば(ストロークが)増えたって気にしない。それよりプルとキックのタイミングが大事」(小泉氏)。そこは感覚がすべて頼りだ。

 北島の比類なき経験値が、抵抗力と推進力という「二律背反」する力をうまく融合させた。だからこそ、平井コーチは「達人の域」と称賛する。ロンドンで、失った世界記録を取り戻せるのか-。そのカギは、北島自身が握っている。

(2012年6月5日付、日刊スポーツ紙面より)

 ◆高速水着の利点 4年前の記録ラッシュを演出したのが「高速水着」だった。ラバー性素材ゆえ水の抵抗が少ない。加えて浮心点(浮力の中心点)がへそより1、2センチ上になるため、体を水平に保ちやすいのが特徴。自然と足が上がり、キックが打ちやすかった。北島は体をフラットに保つテクニックが高く、初めて高速水着を着た際には、キックが外で「空蹴り」したほど。その高速水着が禁じられ、技術で体を水平に保てない選手は水着とともに沈んだ。

 [2012年7月9日18時32分]





競技種目一覧
インフォ
ニッカンスポーツ・コム