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コラム Nikkan Olympic Column
秘技解剖~五輪メダル候補に迫る~ 五輪コラム

秘技解剖~五輪メダル候補に迫る~

 人とは違う「武器」が、メダル獲得への切り札になる。「五輪メダル候補に迫る 秘技解剖」では、選手の必殺技や秘密兵器を紹介していく。

0コンマの世界を蹴る/トランポリン・伊藤正樹

トランポリン日本代表選手の伊藤正樹
トランポリン日本代表選手の伊藤正樹

 高く、さらに高く- トランポリン男子でロンドン五輪代表の伊藤正樹(23=金沢学院大ク)は、10年から導入された跳躍の滞空時間(つまり高さ)を点数に換算する跳躍時間点(高さ点)の申し子だ。8メートルにも及ぶ世界一の跳躍に、美しさも加えた演技で、昨年の世界選手権では銅メダルを獲得した。ロンドン五輪でメダルの鍵を握る世界一の「フライング・ハイ」。その跳躍の秘密を探った。【取材・構成 吉松忠弘】

 通常のトップ選手でも、安定感などを考慮すると、最高到達点は約6メートルが限界だと言われる。その中、伊藤は、ビル3階分、約8メートルの跳躍を誇る。しかし、パワーや筋力が特に優れているわけでもない。

 「それなりの努力はしたが、特別なことはしていない。瞬発力や筋力を測っても人並み」

 その伊藤の世界一の跳躍を可能にしているのは、0コンマ何秒かの感覚だ。選手が弾むトランポリンの面をベッドと呼ぶ。長辺約4・3メートル、短辺約2・1メートルのベッドは、多数のゴム製のケーブルとスプリングで固定され弾性を持つ。そのベッドの弾性を利用して、選手は高く弾む。

 伊藤は、跳ね返りのたわみが最高の頂点に達したときに、最大限の力をベッドに伝える能力が、他の選手より秀でているのだ。たわみが頂点に達する前や、頂点から元に戻る時では、うまく力が伝わらない。

 「まず、ベッドのたわみに乗る感覚です。たわみとともに、力をためにためます。その力を、ベッドのたわみが最高の頂点に達した時に蹴る。一番、高いときに蹴ることができれば、それだけうまく弾性が使えます」

 ベッドのたわみが最高点に達する瞬間は、0コンマ何秒の世界。その瞬間に、蹴るパワーをすべて伝達するには、前段階で力をためる部分も重要だ。伊藤は、他の選手と比較すると、蹴る前の姿勢が、やや前傾していると言われる。前傾姿勢から、体を伸ばすのと、たわみの最高点が一致した瞬間に、世界一の跳躍が生まれるのだ。

 しかし、トランポリンは、空中で3回宙返りなどの高難度の技を行うため、高く跳んだり、前傾したりすれば、安定感を失う矛盾を抱える。ベッドの中央には、1辺70センチの赤い十字が描かれており、そこから外れていくと演技点から減点される。

 「跳躍のために一瞬でためる力が強いんですけど、空中ではある程度、リラックスしているんです。それが安定感につながるんだと思います。それと1本目が大事。そこで、どれだけ自分のリズムを作れるかですね」

 伊藤の夢は、五輪でメダルを取って、トランポリンをメジャーにすることだ。ロンドンでは高く美しく跳ぶことで、最高の夢をつかむ。

 ◆跳躍時間点 10年1月1日から採用された新ルール。跳躍時間測定器を使用し、ベッドに体重が乗っておらず、沈んでいない時間(つまり選手が空中にいる時間)を計測。1秒を1点に換算し、そのまま得点に加える。

 ◆伊藤正樹(いとう・まさき)1988年(昭63)11月2日、東京都生まれ。4歳でトランポリンを始め、高校から強豪の金沢学院東高へ進学。08~11年全日本選手権個人3連覇。09年には上山容弘に続き日本人2人目の世界ランク1位。11年世界選手権個人銅メダルで五輪代表を内定させた。167センチ、62キロ。 

(2012年6月12日付、日刊スポーツ紙面より)

 [2012年7月11日19時29分]





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