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コラム Nikkan Olympic Column
秘技解剖~五輪メダル候補に迫る~ 五輪コラム

秘技解剖~五輪メダル候補に迫る~

 人とは違う「武器」が、メダル獲得への切り札になる。「五輪メダル候補に迫る 秘技解剖」では、選手の必殺技や秘密兵器を紹介していく。

これが美里スペシャル/柔道・中村美里

130キロの相手も沈める浮き固めの完成(撮影・今村健人)
130キロの相手も沈める浮き固めの完成(撮影・今村健人)

 絞めながら抑え込む-。柔道のロンドン五輪女子52キロ級代表で、前回北京五輪では銅メダルを獲得して平成生まれ初のメダリストに輝いた中村美里(23=三井住友海上)。彼女の最大の武器は、三角絞めからの寝技「浮き固め」だ。絞めて、抑え込むため、その二重苦に相手は2倍の体力を消耗する。完成度は、かつて70キロ以上も重い相手を抑え込んだことで証明済み。そんな“美里スペシャル”を、解析する。【取材・構成 今村健人】

 身長差など関係ない。157センチの中村は先日、元プロ野球投手で197センチの金石昭人さんと話す機会があった。40センチも違う相手はさすがに抑え込めないのでは…。周囲に問われ、平然と答えた。「大丈夫。三角絞めさえ入れば平気です」。

 体重差も気にならない。2年前、今年の全日本女子で3位に入った朝比奈沙羅(15)に寝技を掛けたことがあった。相手は中学生といえど全国中学校大会優勝者で体重は130キロ近い。だが、70キロ以上も重い相手を最後まで抑え込んだ。ひとたび入れば誰も逃さない“美里スペシャル”。三角絞めから始まるその技の名は「浮き固め」という。

 崩れ上四方固めともされる中村の浮き固めは、相手が崩れ、うつぶせになったところから始まる。左足を相手の右脇に差し込み、右足を首にからめながら、ふくらはぎで頸(けい)動脈を絞めにいく。三角絞め。まずここが、ひと味違う。練習相手を務める57キロ級の上村凜歩は「足で耳をはさまれて、何も聞こえない。隙間なく入る感じ。それほど中村先輩の絞め足はフィットします」とうなる。

 ただ、美里スペシャルはこの絞めだけでは終わらない。聴覚を奪うと、体を揺さぶる。本来、三角絞めは足をロックした側に返すのが基本。だが、中村は「やる人はそんなにいませんが、逆に返す方が得意なんです。だから揺さぶると、相手もどっちに返されるか分からないはず」。“逆”三角で、いともたやすく裏返す。後はもう、抑え込むのに特別な力はいらない。

 「中学で教わった」という秘技。ただ、国際ルールで認められているものの、嘉納治五郎氏創設の「講道館柔道」には、実はない。三角絞めをきめているが、単に“乗っただけ”の姿は以前「制御している」とされなかった。中学3年の全日本ジュニア関東予選。ロンドン五輪48キロ級代表の福見友子と対戦した中村はこの技を仕掛けたが、審判の言葉は「待て!」だった。時を経て、昨年の選抜体重別。決勝の橋本優貴戦で、認められた。「そこで初めて、この形が浮き固めだと知りました」と笑った。

 三角絞めをきめたまま、抑え込む-。相手に与える“二重苦”が最大の武器だ。「絞められながら抑え込まれる技は、ほとんどない。だから、ほかの技よりも体力を消耗するんです」と上村は言う。抑え込みから逃げないと負ける。抑え込みがほどけても、次は絞め技への対処が待っている。体力がいくらあっても足りない。中村の畳で寝ることは、まるで無間地獄にいる錯覚を覚えさせられる。

 北京五輪では、平成生まれ初のメダリストとなりながら「金メダル以外は同じです」と悔し涙を流した。「五輪の借りは五輪でしか返せない」と励んできた4年間。「練習ではたくさん寝技をやりますが、試合では自信を持っている技しか掛けない。その1つが、浮き固め」。この4年で、中村は確実に“怖い女”になった。

 ◆中村美里(なかむら・みさと)1989年(平元)4月28日、東京都八王子市生まれ。8歳で柔道を始める。渋谷教育渋谷高1年の05年11月に講道館杯48キロ級を制し、同12月の福岡国際女子を谷亮子以来となる16歳で制覇。07年10月に52キロ級に転向し、北京五輪出場。平成生まれ初の銅メダルを獲得した。09、11年世界選手権金メダル。家族は両親と兄。157センチ。

 [2012年7月13日14時58分]





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