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コラム Nikkan Olympic Column
秘技解剖~五輪メダル候補に迫る~ 五輪コラム 秘技解剖~五輪メダル候補に迫る~

 人とは違う「武器」が、メダル獲得への切り札になる。「五輪メダル候補に迫る 秘技解剖」では、選手の必殺技や秘密兵器を紹介していく。

金の見えるサングラス/セーリング 近藤・田畑組

サングラスを使用して金メダルを狙う近藤(左)田畑組
サングラスを使用して金メダルを狙う近藤(左)田畑組

 サングラスで風を読め-。ロンドン五輪セーリング女子470級で、世界ランク1位の近藤愛(31)田畑和歌子(28=ともにアビーム)組が9日、決戦の舞台に出発した。2人の必携品がオークリー社のサングラス。風の変化、波の様子など海上で起こるさまざまな事象に対応してくれるという。昨年のプレ五輪を制して、本番で金メダルを狙う視界は「クリア」だ。

 半信半疑から始まった。2年前のこと。スキッパー(艇長)の近藤は「サングラスについて誤解していた」という。

 近藤 それまでは強風の時にかけたことはあったのですが、サングラスは色がついていて、海面の色が見えなくなるので苦手。ほとんど使っていなかった。

 そんな時、クルーを務める田畑が中3の時から愛用している、オークリー社のサングラスと出合った。同社の担当の露木慎吾さんは「近藤選手に『サングラスをすると風が見えなくなる』と言われて、何のことか分からず、一緒に艇に乗ってみました。風は感じるもので見えるものじゃないですよね」と、振り返る。

 実際に海に出ると、近藤、田畑が海面での風の変化などについて説明してくれたという。

 近藤 海面で黒く見えるところは風があるんです。ないと白い。私は艇を速く走らせる役目なので、風がどこにあるか、風を受けるセール(主帆)のカーブの形がどうなっているかなどを判断しないといけない。

 風を読むために、波や太陽光によって変化する海面の微妙な色を見定めているのがセーリング。色を見えなくするサングラスはしたくない。そんな悩みに、露木さんは「クリアレンズにしてみたら」と持ちかけた。「誤解というか、サングラスといえば色付きと思うのが普通かもしれません。色付きだと同化して全部黒く見えてしまう。でも、紫外線を100%、太陽光も50%カットできる透明なレンズもサングラスなんです」。その勧めに実際にかけてびっくりした。

 近藤 ほとんど透明なのに紫外線や太陽光をカットするものがあるんだと。かけてみたら、全くまぶしくないし、海面の色もしっかり見える。しぶきも気にならず、太陽光もカットされるので、目を細めずにずっと見ていられる。以前は、前が見えなかったり、見られなかったりがあった。

 かじ取りをする近藤にとって、瞬時の判断が艇のスピードを左右するだけに「ずっと前を見る」のは不可欠。サングラスを手放せなくなった。

 クルーの田畑にとっても、必需品だ。海面に身を乗り出すようにしながら、全身を使って艇の重心やバランスをとり、前帆を操って船の方向を変える。こちらは、まぶしさ対策もあって色付きを使用する。

 田畑 私の場合、水をかぶる役目なので(笑い)、目に水が入らないように。レンズも水をはじくもの(ハイドロフォビックコーティング)にしています。まぶしくないので(コースの目印の)ブイを見つけやすい。それと、ロープとかが顔に当たることも多い。散弾銃で撃っても割れないというレンズなので、どんな激しく動いても安心感があります。

 実際、オークリー社のサングラスは米国では警察や軍で採用されているという。風、水、光、衝撃…レース中に起こるさまざまな事象、障害を乗り越えるために、サングラスは大きな武器になっている。

 五輪会場のウェーマス沖は、本拠地の神奈川・葉山と同じ岸に近いコースで相性がいい。同会場での10年W杯、11年プレ五輪で優勝し、世界ランク1位で現地に乗り込む。北京五輪では代表を争った艇のスキッパー同士で、近藤が出場(14位)。今回は「ライバル」が協力して金メダルを狙う。9日、五輪会場で最終調整を行うため、出発した。「ウェーマスは天候が変わりやすい。現地でどんなタイプにするか決めたい」と、2人ともサングラスについても「最終チェック」をして臨む。【赤坂厚】

 ◆セーリング女子470級 艇の全長4・70メートルから470級という。幅1・68メートルで2人乗り。レースは台形のコースを回ってタイムを競う。1日2レースの5日間と最終日1レースの6日間計11レースを行い、各レース1位1点、2位2点、3位3点…と増えていき、合計ポイントの低い艇が上位となる。96年アトランタ五輪で、重、木下組が銀メダルを獲得。

 ◆イチロー(大リーグ) 「打撃の調子を落とす原因の1つに目があるとすればそれを消したい、という気持ちがあるようです」と、目を保護するのが大きな目的。また、本拠地セーフコフィールドは西日が強いため、まぶしさ対策。

 ◆宮里藍(ゴルフ) 「沖縄育ちなので必要と思っているようで、10年以上使っている。忘れたときに体調が悪くなるということでした」と目のコンディショニングが目的という。

 ◆高橋尚子(マラソン) 00年シドニー五輪では32キロ地点でスパートした際にサングラスを投げたことでも有名。「駆け引きのため、相手に目を見せない意図もあったそうです」。

 ◆ロンドン五輪代表 30人以上がオークリー社のサングラスを使用する。「陸上長距離は目の疲労の軽減、短距離や射撃では隣の選手を視界に入れないなどの理由があるようです。自転車やビーチバレーでは砂や飛散物からの目の保護も重要とのことです」。

(2012年7月10日付日刊スポーツ紙面より) 

 [2012年7月25日14時9分]





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