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コラム Nikkan Olympic Column
爲末大学 オリンピックを考える 五輪コラム 爲末大学 オリンピックを考える

 五輪に3度出場、世界選手権で2度銅メダルを獲得し、先ごろ引退したばかりの侍ハードラーが、独自の視点から五輪を斬る。社会派アスリートが現地で 見て、感じた世界最高峰の戦いを語る。

最終調整失敗の教訓…数十分でも力を抜こう

 いよいよ待ちに待ったロンドン五輪が開幕する。これはぜひとも1度は現地で見ておかないといけない、ということで、私、為末大は今五輪が開催されるここロンドンで開会式を待ちながらこの文を書いている。

 振り返れば今年の6月頭までは、オリンピックに行く気満々で準備していたものだから、まさかこうしてメディアやサポートする側の立場でここに来るとは思ってもみなかった。6月の日本選手権で引退後、日刊スポーツからロンドン五輪のコラムを頼まれたときも引き受けながら、もしかして、いざ五輪を見て文章を書く時に複雑な気持ちになるんじゃないだろうかと思って心配していた。

 でも、実際に五輪に来てみて、不思議なことに全くそういう気持ちがわかない。選手には頑張れと言いたいし、大会もうまくいってほしい。そしてグラウンドに自分がいないことにそれほど感傷的な感情を抱くこともなく、気持ちも落ち着いている。不思議なものだと自分でも思うけれど、自分なりに走りきって気が済んだ証拠だろうと思う。

 選手時代を振り返っても、五輪開幕の数日前は、選手は張りつめている時期だろうと思う。直前合宿をしている種目、既に選手村に入った種目、いろいろだろうけど、これまでの経験をフルに活用して一番自分たちにとっていいコンディションを作り上げようとする局面に入っている。どのスポーツにとっても、陸上競技のような一発の種目は特に調整というのは大きく勝負に影響する。

 2004年のアテネ五輪、僕は絶好調のシーズンを過ごしていた。レースの日からちょうど8日前に250メートルを2本やるという予定にしておいたのだけれど、その数日前から何となく体の疲れが取れない感じがしていた。それでもその時はスケジュールに組んであるのだからと、予定していた練習を行い、本番に臨んだ。結果は疲れが抜けきらずに準決勝敗退。決勝進出者との差はわずか100分の2秒だった。

 オリンピックというのは選手にとって、とても大きなものなので、だからこそついつい力が入って前のめりになる。若い時は自分の鼻息が荒くなっていることが自分で気付かなかったから、大きな失敗を何度もした。自分が入れこんでいることを若い時に気付くのはすごく難しい。

 だからこれからの数日、選手はもう勝負なんて8割終わったつもりで、なるべくリラックスしてほしいと思う。オリンピックを前にしてリラックスするなんて難しいけど、それでも1日のうち、ほんの数十分でもいいからどこかで力を抜く局面を作ってほしい。それだけで随分、冷静になれたりするものだから。

 泣いても笑ってもあと2週間以内にすべての種目で結果が出る。寝不足になりながら、涙で目を腫らして、でもどこか元気になる2週間。さあ、いよいよ五輪が開幕する。

 [2012年7月28日13時45分 紙面から]





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