運、ひらめき、勘…万事尽くす／塚原千恵子監督

　体操は男子だけじゃない。塚原千恵子女子代表監督（６４）は、６４年東京五輪団体銅メダル以来の日本女子メダルをロンドン五輪で真剣に狙っている。過去２３人の五輪選手を育て上げた指導者としての手腕に加え、豊富なデータにひらめきや易学も使っての指導は、まさにこの世の森羅万象を駆使する「塚原オリジナル」。「集大成」と言い切るロンドンで万全を期し、４８年ぶりのメダルに挑む。五輪２次選考会を兼ねる全日本選手権（東京・代々木第１）は７日に幕を開ける。【取材・構成　吉松忠広】

　塚原監督はペンを取り出すと、慣れた手つきで字画を計算し始めた。姓名判断だ。方位学、えとにもたけている。指導は体操の基本があってこそ。しかし、運、ひらめき、勘をも総動員し、万事を尽くさなければ、五輪選手を育てることや、メダルを狙うことはできないという。

　塚原監督　できることはすべてやる。そのやり方が自分流。試技順（演技する選手の順番）はすごく大事で悩むけど、最後はひらめきや勘で決めることもあります。決めたら、あとはまったく不安にならない。日体大の受験の時、机の右隣が、今の夫の塚原光男。一緒にメキシコ五輪に行って、その後、結婚するんです。運命的な出会いですよね。そういうことが世の中にはある。コーチの仕事は、自分の気力や考えを出し尽くさないとできないんです。運やひらめきや何でも使って思い入れでやらないと、五輪選手はできない。それほど大変だし、メダルを狙うなら、なおさらですよ。

　女子の体操選手は、１６～２０歳が競技力のピークだ。心身ともに少女から女性への過渡期であり、葛藤で心が揺れ動く。指導者への不満が募り、離れていく選手も少なくないという。親との付き合いも気を使う。気力や体力ともに、コーチ、選手、家族が一体化しないと、選手は育たない。

　塚原監督　本当に厳しい練習をしなくてはいけないときに、心身ともに成長し変化が訪れる。体重が重くなったりして、それまでうまくいくことがいかなくなったり。親御さんの意向も影響します。とても難しい。それぞれの人生ですから、わたしは、選手や家族の意向に反対したり、引き留めたりしたことはないけれど。

　苦労は多いが「教えること」が好きだ。父は小学校校長、母は長崎市保育課長。生まれたときから「教え」の環境がそろっていた。バレエを習い、水泳は立ち泳ぎの免許を持ち、習字は特２級。習い事も「教え」の一環だった。宝塚への進級を目指したが、身長が３センチ足りず断念し、体操への道に転じた。

　塚原監督　レベルは関係ない。今、監督を辞めても、朝日生命で小さな子を教えていると思いますよ。教えることが好きなんです。あそこが悪いと発見して、どうしようかと教えていくと、良くなっていくじゃないですか。自分がドクターになったような気持ちで、すごく満足感がある。今でも体育館に行く前に、あれを教えようとか、あの練習をしようとか考えると楽しくなります。

　コーチとして初めて行った７６年モントリオール五輪から数えて、ロンドンは６度目の五輪となる。他競技を見ても、指導者としては大ベテランの１人だ。しかし、選手としても、指導者としても、まだ五輪でメダルを手にしていない。

　塚原監督　集大成だと思っていますね。だから、わたしが持っているもの全部を使ってやってみようと思ってるんです。ロンドンの泊まるところも、今年は１０階以上はダメ。５、７、８階で取りなさいと言っている。ロンドンでメダルを取るって言っているけど、今までメダルと言ったことはないんです。でも、今度は、とてつもなくいいか悪いかの、どっちかなという勘があるんです。だから、すべてをつぎ込んでやってみようと思っています。

　◆塚原千恵子（つかはら・ちえこ）１９４７年（昭２２）８月１２日、長崎市生まれ。旧姓・小田。長崎西高で本格的に体操を始め日体大に進学。６７年インカレ個人総合に優勝し、６８年メキシコ五輪では団体４位入賞に貢献。６９年は全日本、インカレ、ＮＨＫ杯の３冠を達成し「体操の女王」と呼ばれた。７２年に引退し、朝日生命女子体操クラブの監督として、これまで２３人の五輪選手を育てた。五輪では７６年モントリオール、８４年ロサンゼルスが女子チームリーダー。８８年ソウル、０４年アテネ、０８年北京と女子監督を務める。息子はアテネ五輪団体金メダルの直也。

（２０１２年４月３日付、日刊スポーツ紙面より）

　［2012年7月13日15時5分］