負けない!日本~スポーツ100年~
金メダルのドラマが感動を生み、日本人を勇気づけた。日本のスポーツを統括する大日本体育協会(現日本体育協会)創立は、101年前の1911年(明44)。日本の五輪参加もロンドン大会で100年となる。逆境をはね返した金メダリストの偉業を振り返る。【編集委員 荻島弘一】
東京銅から8年…マスコミへのリベンジ/男子バレー
- ミュンヘン五輪で金メダルの男子バレーボールチーム帰国。約2000人のファンで空港が埋まった。手前左は松平康隆監督
<1972年ミュンヘン五輪>
72年ミュンヘン五輪、男子バレーボールが金メダルを獲得した。準決勝のブルガリア戦は奇跡的な逆転勝ちだった。日本中が、深夜のテレビ中継に沸いた。森田淳悟の1人時間差、木村憲治のBクイック、セッター猫田勝敏の奇策、天井サーブ…。高さとパワーの相手を圧倒する速攻コンビバレーが、代名詞だった。
大会直前まで放送された「ミュンヘンへの道」が日本人の心をとらえた。テレビの中で繰り広げられる華麗な攻撃を、全国の小中学生がまねた。しかし、それは監督の松平康隆(故人)が作り上げた「虚構」だった。亡くなる前の11年8月、松平は「松平一家」の真実を明かした。
松平 チームの本質は攻撃にはなかった。体格で劣る日本が攻撃で世界一になるのは無理。1人時間差なんて、とれたって1試合で3ポイントぐらいだから。しかし、守備なら体力と技術で勝負できる。体力は訓練でどうにでもなる。全体の8割はレシーブ練習。体力トレと守備を徹底した。世界で勝つには拾いまくる以外にない。本質は世界一のレシーブにあった。
松平が発案したのは今では当たり前になったフライングレシーブ。コート上20センチに素早く手を伸ばしてボールを拾い上げる。2メートル近い大男が、どれだけ速く、遠くまで跳べるか。逆立ち歩きや宙返り、先端にボールを付けたロープを跳び越える練習。すべては、レシーブ力向上のため。「切り込み隊長」木村憲治は、壮絶な練習を振り返った。
木村 松平さんは9人制のバックセンターで、守備が専門。絶対許されないのは見送ることだった。何でも手を出せと。コート上を横っ跳びし、アゴを割る選手も続出した。医務室から戻ると、松平さんに「何分治療してた」と聞かれた。僕が「15分です」と答えたら「じゃあ、あと15分」と言うなり、ボールが飛んできた。思い出は、厳しいレシーブ練習しかないよ。
1人時間差で国民的スターになった森田も、ブルガリア戦の勝因が攻撃になかったことを明かした。
森田 日本の攻撃はすべて研究され、何ひとつ通じなかった。それでも勝てたのは、我慢する気持ち、精神的なたくましさがあったから。最後のポイントは嶋岡のスパイクだった。ブロックに当たってコースが変わった相手のスパイクを、自分が左手で上げた。普通なら手が出ないボール。練習のおかげだと思う。
守備のチームを作りながらも、松平は派手な攻撃をアピールした。「ミュンヘンへの道」を企画し、少年漫画誌の表紙に選手を登場させた。新聞やテレビが取り上げるのは、派手な攻撃だった。守備では記事にならなかったから、攻撃を前面に出して金メダルを公言した。それは、64年東京五輪から8年かけたマスコミへのリベンジだった。
松平 東京では銅メダルなのに、新聞やテレビは扱ってくれなかった。女子なんか、ライバルはソ連ぐらいでしょ。男子の方がレベルは数段高いのに。それが出発点。メディアは本質を見ない。そこを利用した。金メダルを日本中で喜んでもらうために、メディアを通じて多くの人に男子バレーを知ってもらった。金メダルをとって、新聞やテレビに向かって「ざまあみろ」と言いたかった。
男子団体球技の五輪金メダルは、後にも先にもバレーだけ(84年ロス五輪の野球は公開競技だった)。81歳(取材当時)になった松平は「狙ってとった金。負けてたまるかと思いながら、勝つためにできる準備はすべてしたよ」と誇らしげに振り返った。(敬称略)
◆72年ミュンヘン五輪男子バレーボール
1次リーグB組を失セット0で1位突破した日本は、準決勝でA組2位のブルガリアと対戦。2セットを失い、第3セットも4-7とリードされたが、投入された主将の中村祐造と南将之のベテランコンビが活躍。大逆転で決勝進出を決めた試合は、深夜の日本でも生中継された。決勝の相手は東ドイツ。第1セットこそ失ったものの、続く第2セットから日本本来の速攻コンビバレーがさえ、3-1で初の金メダルに輝いた。
(2011年8月9日付日刊スポーツ紙面より)
[2012年7月3日19時17分 紙面から]
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