五輪の街で甦った がれきの大太鼓
- 復興支援への感謝を、太鼓の音色で伝えた「気仙町けんか七夕太鼓」のメンバー
ロンドンに震災復興の太鼓が響いた-。五輪開幕を控えたロンドンの中心部で25日夜(日本時間26日)、東日本大震災の復興イベント「ジャパン・フェスティバル2012inロンドン」が始まった。初日は、津波で壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市の伝統芸能「気仙町けんか七夕太鼓」保存会のメンバー16人が力強く太鼓をたたいた。五輪を機に世界中から集まった人に、震災支援の感謝を伝えていく。
東北の男たちが奏でる魂のリズムが、ロンドンの夜空に鳴り響いた。日本から持ち込んだ5つの太鼓に笛の音。メンバー16人は古くから陸前高田に伝わる「けんか七夕太鼓」を約15分にわたってたたき続けた。フィニッシュ後、観光客や仕事帰りの会社員らで埋まった会場からは大きな拍手が沸いた。保存会の菅野剛副会長(62)は「歓声がうれしかった。『ありがとう』の思いは伝わったと思う」と汗を拭った。
イベントは文化人らで構成する実行委員会が企画し、外務省や岩手、宮城、福島など被災各県が後援。太鼓は900年前から気仙町に伝わる祭り「けんか七夕」の山車の上で演奏するおはやしを舞台用にアレンジしたもので、震災前には米国などで海外公演も行ったこともある。「日本の元気を伝えるのにふさわしい」と主催者側に招待された。演奏は3部構成で、祭りのにぎわいを太鼓の音色で表現する。
同会は津波でメンバー3人が犠牲になり、所有する太鼓もすべて流された。1年間の活動停止を経て、がれきの中から見つかった太鼓の修理や寄付などで今春から活動を再開。今回ロンドンに空路持ち込んだ大太鼓は、がれきの中から拾い上げた後も修理せず「記憶」として保存していたが、「恩返しのために」と、震災以来初めて封印を解いたものだ。
ロンドンでの舞台へ向けメンバーは仕事の合間をぬって週4回の練習を積んできた。一緒にみそ造りをしていた父元男さんを亡くした市臨時職員吉田寛さん(28)は「五輪という大イベントが行われる場所で、被災地の元気を見せられた。感謝の気持ちを忘れず、ぼくら若手が伝統をつないでいきたい」と誓った。
じっと演奏を見ていた地元ロンドンのスペンザ・メイエンさん(27)は「素晴らしかった。悲惨な災害から立ち直った日本の人たちを尊敬している。五輪でも日本選手を応援するわ」と拍手を送った。
メンバーは27日に帰国し、来月7日に気仙町で開催される「けんか七夕」に備える。震災の影響で昨年は規模を縮小したが、今年は例年通りに開催予定。メンバーはロンドンでの反響を手みやげに、再び故郷で復興に取り組んでいく。
[2012年7月27日8時24分 紙面から]
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