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現地レポート 五輪の光と影 五輪コラム 現地レポート 五輪の光と影

 社会部事件担当の石井康夫記者が英国社会の深層に迫る。五輪会場の内外に目を向け、現地住民の反応から、ホスト国の社会問題を多角的に取り上げる。

職ない住民「五輪見ない」

多くの来場者でにぎわうストラトフォード駅前の広場(撮影・石井康夫)
多くの来場者でにぎわうストラトフォード駅前の広場(撮影・石井康夫)

 世界が注目した27日の五輪開会式。チケットは持っていないが、せめて雰囲気だけでも味わおうと会場に向かった。二重、三重…いや“十重”ほどの厳重な警備に阻まれ、スタジアムには1歩も近づけなかったが、駅前広場では各国からの観光客がそれぞれの国歌を披露する歌合戦が始まるなど大盛り上がり。そんな熱狂ぶりを眺めていたら、後ろから冷めた目で見詰める地元住民の視線に気が付いた。

 五輪パークに直結するロンドン東部ストラトフォード駅。改札を出ると、駅前は開始3時間前だというのに、すれ違うのが難しいほどの人混みだ。チケットを手にゲートに向かう人々を見ると、警官から何重ものチェックを受けている様子がうかがえる。この日は隣接する大型商業施設も午後3時には閉店。当局の徹底した警備ぶりに、結局スタジアムを遠くから見ることしかできなかった。

 もっとも最高で2012ポンド(約25万円)のチケットが買える人はそう多くはいない。駅前広場は、“持たない仲間”たちが集まり大騒ぎだ。国旗を羽織りながら国歌を歌う人もいれば、思い思いのコスプレを披露する人もいて、見ていて飽きない。フランス人のサラさん(30)は「会場に入れなくたって、ここでみんなで騒ぐだけで楽しい」。顔にペインティングをした米国人カップルも「記念になるよ」と五輪ムードを満喫していた。

 一方で、そんな光景を冷めた様子で見る地元住民の目も気になった。メーン会場のあるロンドン東部は古くからの工業地帯。真新しいホテルや店が立ち並ぶなど再開発が進んだ今も、黒人や中東系の労働者が決して豊かではない生活を送る。急激な環境の変化に戸惑いをみせる住民も少なくなく、道路の縁石に腰を下ろしていた黒人男性は「ここに人が集まるのは悪いことじゃないが、政府は他にお金の使い道があるのでは」。五輪を見るかの問いには、笑って「見ないだろうね」と肩をすくめた。

 ◆ストラトフォード ロンドン東部ニューハム・ロンドン特別区にある。かつては英国有数の貧困地区で、貧困層や移民が多く住むことで知られた。10年度の失業率は、ロンドン最高の15・2%。もともと繊維工場などが多く、産業廃棄物が埋められるなど土壌汚染が深刻だった。五輪メーン会場地区に選ばれ、約200万トン以上の土壌浄化や周辺道路の再開発など、72億ポンド(約9000億円)をかけて再開発された。現在、会場周辺にはマンションや欧州最大級のショッピングセンターが建ち、街の様相は一変した。

 [2012年7月29日8時49分 紙面から]



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