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コラム Nikkan Olympic Column
敗者の美学 五輪コラム 敗者の美学

 勝者がいれば、必ず敗者がいる。「敗者の美学」では日本人選手はもちろん、海外の選手も含めた「敗者」の人間ドラマをクローズアップ。記者が思い入れたっぷりに語ります。

須佐「これでやめる」/ボクシング

<須佐勝明:ボクシング男子フライ級>

 「異色の勝負師」の一世一代の戦いは、わずか9分間で終わった。アマチュアボクシング男子フライ級代表の須佐勝明(27=自衛隊)は、1回戦で18歳のメダル候補のラミレス(キューバ)に7-19で判定負けした。3分3ラウンドの間、相手の左構えから繰り出されるジャブをもらい、得意の接近戦が通用しなかった。「これでやめる」。はっきりと引退を口にして、集大成の舞台を去った。

 とにかく勝負が好きだった。小1から地元の会津若松の将棋道場に通い出した。実力は自称「アマ3段」。高1で始めたボクシングよりも先に、対局に魅せられた。「福島の高校竜王との試合がボクシングと重なって、最終的にはボクシングを選んだ」。

 その後も勝負勘を鍛えるため、池袋の西口公園で「青空将棋」の日々。年間1000局以上にも及んだ。マージャンも大好き。「先を読むのはボクシングでも重要」と異色の鍛え方を貫いた。

 1度は引退もした。4年前の北京五輪アジア最終予選は減量苦で敗退。自衛隊でコーチになる道を選んだが、才能を惜しむ周囲の声に翻意。1年9カ月後の09年6月に復帰。強烈な右のパンチは、交流があるWBA世界バンタム級休養王者の亀田興毅も「ホンマに強い。3ラウンドやったら世界チャンピオンになれる」と称する実力を誇った。

 27歳、アマチュアボクシングとしてはベテランの域に入る。いつも苦しむ約10キロの減量対策に、肥満治療の権威である日本医科大の及川真一医師にも相談。福島第1原発の放射線の影響で風評被害などに苦しむ故郷の期待も背負い、満を持して臨んだ決戦だった。

 「応援してくれた人のためにもメダルを取って残したいと思っていた」。勝ちか負けしかない世界が好きで、生きてきた。しっかりと現実を受け止め、1つの勝負を終えた。【阿部健吾】

 ◆須佐勝明(すさ・かつあき)1984年(昭59)9月13日、福島・会津若松市生まれ。友人に誘われて会津工高でボクシングを始める。08年、自衛隊体育学校入学。現在は3等陸尉。アジア大会は06、10年と2大会連続銅。11年6月に小百合夫人と結婚。同年10月に長女碧ちゃんが誕生。164センチ。

 [2012年8月1日10時11分 紙面から]



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