名言はこうして生まれた
ドラマの数だけ言葉が残った。ロンドン大会で100年を迎える日本の五輪挑戦史、多くの選手たちが勝って笑い、敗れて泣いた。記録と記憶をつなぐ「言葉」を、当時の感動とともによみがえらせる。【編集委員 荻島弘一】
「自分が弱いから負けた」
- 柔道男子100キロ超級決勝 篠原信一は試合が終わりぼう然と主審を見つめた
<柔道・篠原信一~2000年シドニー五輪~>
その瞬間、誰もが金メダルを疑わなかった。00年シドニー五輪柔道男子100キロ超級決勝戦、開始1分35秒で、篠原信一の内また透かしがフランスのドイエに決まった。ガッツポーズの篠原、肩を落とすドイエ。しかし、主審の判定は篠原の一本でなくドイエの有効だった。結局、これが響いての銀メダル。「世紀の誤審」とも呼ばれた。
篠原 自分では分かりますからね。やったと思いましたもん。ところが有効。「何で一本じゃないの?」っていう気持ちのまま「始め」がかかった。
前年の世界選手権で史上4人目(過去は山下泰裕、小川直也、ドイエ)の2階級制覇。絶対的な金メダル候補だったが、まさかの銀。表彰式で涙を見せた篠原が、会見で言ったのは「自分が弱いから負けた。それだけです」だった。
篠原 試合後は「やってしまった」だけですわ。自分がとか、ドイエがとか、審判がとか、なかった。表彰式までの15分で考えたのは「なぜ、あの後に相手を投げようと思えなかったのか」ということ。気持ちの切り替えができなかった自分が情けなかった。
金メダリスト以上に強烈な印象を残した篠原だが「銀メダリスト」であることは変わらない。
篠原 やっぱり銀はダメです。「記録より記憶」という人がいるけど、アホかと思いますね。知ってる人はいいけど、今の大学生以下なんて知らんですよ。息子にも言われます。「お父さん銀でしょ」って。本当に強い者は勝つ。
誰よりも五輪の怖さ、柔道の難しさを知っている篠原は今、ロンドン五輪男子監督として金メダル獲得を目指している。「心技体。一番大切なのは心」を、代表選手に伝え、本当に「強いから勝つ」選手を育てることを目指す。(敬称略)
(2012年3月22日付日刊スポーツ本紙より)
[2012年7月14日14時7分]
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