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コラム Nikkan Olympic Column
秘技解剖~五輪メダル候補に迫る~ 五輪コラム

秘技解剖~五輪メダル候補に迫る~

 人とは違う「武器」が、メダル獲得への切り札になる。「五輪メダル候補に迫る 秘技解剖」では、選手の必殺技や秘密兵器を紹介していく。

愛が奏でる低音の魅力/卓球・福原愛

上の写真は、1月21日の全日本選手権シングルス初優勝を飾った福原
上の写真は、1月21日の全日本選手権シングルス初優勝を飾った福原

 愛の「低音ラケット」が、五輪メダルへの音色を奏でる-。卓球ロンドン五輪代表の福原愛(23=ANA)は、バイオリンやピアノなど弦楽器の合板技術を用いたラケットを使用する。木質の内部にまで浸透する特殊な接着剤で、素材を強力に“凝縮”。実が詰まった重みのある勝負ラケットで、日本卓球初の五輪メダルを狙う。【取材・構成 今村健人】

 福原は“音”にこだわる。ずらっと並べられた数々のラケット。その試打を張コーチらに任せて、球が打たれるときにラケットが奏でる「音色」に耳を澄ます。高音があれば、低音もある。「木が硬いか、柔らかいか、音で全然違うんです。ラケットが金属(化学素材)で、ほぼ同じ製品ができるバドミントンやテニスと違って、卓球は木。自然の物だから、たとえ同じ木からつくられていても、木の上部と下部では全然違う。それを、全てたたいて確認します」。

 一般に、金属音のような高い音が出る方が球は弾む。飛ぶラケットの方が好まれる。だが、福原は違う。「音が鈍いのは、あまり飛ばない。私は、その飛ばない方が好きなんです。球が飛ぶ方は、感覚がなくなる感じがするので」。好みは「低音」。こうした作業で見つけた勝負ラケットは今、偶然にもその名を「アコースティック」という。

 アコースティックは、卓球メーカーのニッタクが開発した弦楽器シリーズの1つ。バイオリンやピアノなどの弦楽器は、木と木の接着(合板)が強くなければ、振動がブレて良い音色を奏でられない。そのため一般の接着剤と異なり、木の水分の通り道となる道管にまで浸透する技術が使われている。それを、同じく複数枚の合板から成るラケットに応用した。

 わずか数ミリのズレが明暗を分ける卓球。弦楽器に使う接着剤は隅々に浸透するため、木と木に一体感が生まれる。硬さのバラツキがなく、スイートスポット(中心点)も広がる。ニッタク企画開発部の松井潤一課長は「中が詰まっていて芯があるような感覚。威力ある球が出しやすく、細かなタッチや感覚も伝えやすい」と説く。数ミリをコントロールしやすくなる。持ち味の速さと正確性。そこに全日本を制したような「威力」が加わった福原を、弦楽器の技術が支えている。

 「私はラケットに関しては鈍感な方です」と笑う。だが、福原がラケットを選定する際、用意された数本のラケットは、1グラムずつ重さが違う。たったそれだけの差でも打球感は異なり、硬さとの組み合わせで、感覚は幾通りにもなる。それはまさに音楽家のような繊細さが必要とされている。

 88年ソウル五輪から正式採用された卓球。世界選手権で数々の金メダルを獲得してきたかつてのお家芸も、五輪では1度もメダルがない。歓喜の舞曲を-。愛のラケットから、その音色を奏でる。

 ◆ラバーにも特徴 福原の武器はラバーにもある。球の回転を生み出すゴム製のシートは大きく分けて、表面が平たい「裏ソフト」、ツブがある「表ソフト」、ツブが高くカットマンに多い「ツブ高」の3種類ある。中国勢など世界トップ選手や石川などはフォアもバックも、回転をかけやすく強打が打てる“正統派”の「裏」を使う。だが、福原はバックに、球離れが速く変化もかけられる「表」を採用。いわゆる「裏・表」だ。「私は表でなかったら、ここまで来られなかった。スピードや、変化をつけるのも楽しい。1つ1つの威力は裏・裏より少ないけど、引き出しは多いと思う」。小4から貫くこのスタイルで、真価を証明する。

 [2012年7月7日17時6分]



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