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コラム Nikkan Olympic Column
秘技解剖~五輪メダル候補に迫る~ 五輪コラム 秘技解剖~五輪メダル候補に迫る~

 人とは違う「武器」が、メダル獲得への切り札になる。「五輪メダル候補に迫る 秘技解剖」では、選手の必殺技や秘密兵器を紹介していく。

外から中から必殺ボディー/ボクシング・村田諒太

必殺の左ボディーを解説してくれた村田。外側から打つ左ボディーのヒットした瞬間
必殺の左ボディーを解説してくれた村田。外側から打つ左ボディーのヒットした瞬間

 2種類の必殺ボディーブローで頂点に立つ-。アマチュアボクシングのロンドン五輪ミドル級代表の村田諒太(26=東洋大職)は、確固たる必勝パターンを持つ。腹部を打って体力を奪ってのレフェリーストップコンテスト(RSC=プロのTKO相当)勝ち。判定決着が多いポイント制競技で、KO勝利も含めたRSC勝ちは通算114勝中88回。その驚異的な数字を生みだしているのが角度を変えて打ち分ける左の宝刀だ。64年東京五輪の桜井孝雄以来の金メダルを狙う男のこだわりに迫った。【取材・構成 阿部健吾】

 「そもそも倒したいと思ってやっているんで。アマチュアボクシングを見て、ボクシングを始めたわけじゃないので。ボディーを打つのも、そのためです」

 村田は力強く言う。その信念に支えられ、ボディーブローの技術は磨かれてきた。左の拳が相手の腹部をえぐる角度は2種類ある。「外側から回して打つパンチと、中から突き刺すのと2つです」。体の外側から巻いて打つパンチと、手のひらを内向きにして下から直線的に打つ1発。これを使い分けて、大量のRSC勝ちを稼いできた。

 なぜ村田のボディーブローが有効なのか。その答えには、プロと異なるアマチュア競技のルールが関係している。「いかに倒すか」より「いかに的確にパンチを当てるか、当たらずに試合を終えるか」で争うのがアマ。有効打の数をポイント(点)加算していき、勝敗が決まる。ダウンを奪っても1ポイントにしかならない。そのためスタミナを奪うボディー打ちより、ポイントを稼ぎやすい頭部へのパンチを狙う確率が高くなる。結果、スタミナ切れからダウンすることは少なく、判定決着が多くなる。

 村田が突くのは、その選手心理だ。「打たれ慣れてないので、あまり下への意識がない選手が多い。距離を取る選手が主流ですし」。だからこそ、あえて接近戦から上下を打ち分け、腹を殴る。相手は自分でも予想しない速さで、スタミナを奪われる。

 ただ誰もが村田のように相手を倒せるわけではない。日本人離れしたパンチ力、そして何より「ボクシングおたく」を自称する研究熱心さが根幹にある。「トリニダード、あとは内山さんですね」。90年代中量級最強と言われた3階級制覇王者フェリックス・トリニダードと現WBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志のボディーブローを参考にしている。

 5月には実際に内山が所属のワタナベジムで武者修行もした。「あの人も中と外で使い分けている。『中から突き刺すようなボディー、いいよね』って言われました」。7月には帝拳ジムの出げいこで、WBCバンタム級王者の山中慎介から「あのボディーを打てるのはそういない」と絶賛もされた。

 ルール改正も後押しする。ポイント判定のルールが厳格化されたのは08年。以降、ガードを固めて、距離を取ってポイント稼ぎに徹するボクシングが横行し、09年に現行ルールに再改正された。リアルタイムで公開されていた点を、ラウンド終了後まで隠す方式を採用したため、「1点でも入るとすぐに逃げ回っていた」相手が減り、打ち合える機会が増えた。

 「今のルールにたまたま適合しているだけであって、昔からボディーは打っていたんです」。昨年の世界選手権で銀メダルを獲得し、一気にメダル候補になり上がった。「がっちり攻めて、ボディーで嫌がらせて、そこで勝負するしかない。倒したいんです」。貫き通した信念の勝利で、一番輝くメダルを半世紀ぶりに日本に持ち帰る。

 [2012年7月26日17時7分]



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