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コラム Nikkan Olympic Column
秘技解剖~五輪メダル候補に迫る~ 五輪コラム 秘技解剖~五輪メダル候補に迫る~

 人とは違う「武器」が、メダル獲得への切り札になる。「五輪メダル候補に迫る 秘技解剖」では、選手の必殺技や秘密兵器を紹介していく。

超人技アドラーひねり+リューキン/体操・内村航平

床G難度のリ・ジョンソン(上)と鉄棒G難度のカッシーナ(下)
床G難度のリ・ジョンソン(上)と鉄棒G難度のカッシーナ(下)

 体操男子の内村航平(23=コナミ)が挑むのは、5つの金メダルだ。1大会では日本史上最多となる。切望する団体総合に加え、絶対的本命の個人総合、そして種目別の鉄棒、床運動、平行棒。鍵を握るのが、空中技や離れ技だ。鉄棒では「アドラーひねり+リューキン」という世界初のコンビネーションを取り入れ、昨季から始めた「カッシーナ」も健在。床運動では、昨年の世界選手権で速すぎるひねりで“誤審”を生んだ「リ・ジョンソン」にも磨きがかかった。

 誰よりも美しく、誰よりも難しく、誰よりも正確に演じる。小学校時代、自宅にある12メートルの長さのトランポリンで養った空中感覚と、高校時代にたたき込まれた美しい体操の基礎が見事に融合したのが、内村の超人技だ。五輪では「メダルの自信は120%。うまくいけば5つは狙える」と、日本初の金メダル量産を豪語する。

 4月の全日本選手権初日。鉄棒の序盤で、いきなり魅せた。両手の間に両足を入れ、その後、1回体をひねるD難度のアドラーひねり。続いて前方への車輪から体を振り出し、引き戻すように足の下にバーを見ながら、後ろにバーを越える。バー上では体を1回ひねり、跳び越した後にバーをつかむF難度のリューキンだ。世界初の連続技が公開された瞬間だった。

 内村を長年指導するコナミの森泉貴博コーチは「リューキンだけでも難しい。それに技を加えるのは、体操の常識を覆す」と驚く。リューキンは、伸身トカチェフに1回ひねりを加えた技だ。トカチェフは、体が飛び出す方向と、バーを越える方向が逆という難しさがある。前方から上に振り出された体を、空中で方向転換。バーを背面越しに越えるため、肩を支点に足を振り子のように使って、前方への勢いを後方に変えなくてはならない。

 リューキンは方向転換だけでなく、体を横にひねることにも力を使うため、体が移動する速度がさらに落ちる。「肩の位置を決めて振り子状態の体の力を、今度はひねりに使わなくてはならない。そこが最も難しい」(森泉コーチ)。スピードが落ちると、ひねりが足りずバーがつかめない失敗が生まれる。

 通常、回転やひねり系の大技を行う前には、2~3回の車輪で勢いを付ける。しかしアドラーひねりからすぐリューキンにつなげる場合、車輪の勢いがほとんど使えない。それが「世界初」と言われるコンビネーションの難しさだ。

 昨季から始めた冒頭で披露する離れ技のカッシーナも、内村の十八番だ。日本協会の遠藤幸一常務理事は「きちんとバーとの距離が見えて、瞬時に判断している。その感覚は、常人には分からないほどすごい」と絶賛する。床運動のリ・ジョンソンは、昨年の世界選手権種目別を制した切り札。ひねりが速過ぎて、3回ひねりが2回ひねりと誤審される騒動を起こした。

 昨年の世界選手権種目別の鉄棒は、技の難度を示すD得点(演技価値点)は7・3点。合計16・333点で銅メダルだった。優勝した鄒凱(中国)との合計点とは0・108点差。五輪種目別用の世界初の連続技を取り入れた今回の構成はD得点は7・7点と、昨季から0・4点アップした。1、2位の中国選手と十分に戦える連続技を手に入れ、内村が最多の5冠に挑む。【吉松忠弘】(おわり)

 ◆リ・ジョンソン リ・ジョンソン(北朝鮮)が04年アテネ五輪で実施した技。後方抱え込み2回宙返り3回ひねり。しかし自身は同五輪の床運動で予選14位に終わり、種目別決勝進出を逃した。最高のG難度。難度価値点0・7。

 ◆カッシーナ イゴール・カッシーナ(イタリア)が01年世界選手権で披露した技。伸身コールマン。バーを越えながら、後方伸身2回宙返り1回ひねりを行う。最高のG難度。難度価値点0・7。カッシーナは04年アテネ五輪鉄棒で金メダル。

 ◆リューキン ワレリー・リューキン(旧ソ連)が開発した技。伸身トカチェフ1回ひねり。リューキンは88年ソウル五輪で団体、鉄棒金メダル、個人総合、平行棒で銀メダルに輝いた。床運動でも後方かかえ込み3回宙返りを成功させ、これもリューキンという名がついている。鉄棒のリューキンはF難度。難度価値点は0・6。

 ◆技の得点 体操の得点は、演技の難しさなど構成を評価するD得点(演技価値点)と、演技の出来栄えを評価するE得点(実施点)の合計で成り立つ。技の難度はD得点で表され、A~Gまで7段階に分かれる。最もやさしいAの難度価値点は0・1点。難度に応じて0・1点刻みで同価値点が上がり、最も難しいG難度は0・7点。この難度価値点の加算と、技と技の組み合わせ点などからD得点が算出される。

 ◆日本五輪最多金メダル 1大会で最も金メダルを稼いだのは、68年メキシコ大会体操男子の中山彰規で4個。団体総合、鉄棒、平行棒、つり輪を制した。同大会で中山は床運動で銀、個人総合で銅と、全部で6個のメダルを獲得している。また五輪通算金メダル数では、68年メキシコ大会から3大会で加藤沢男が獲得した8個が最多。

 [2012年7月28日15時49分]



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