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小原金「最初で最後の五輪」/レスリング

北京五輪王者キャロル・ハインを破り決勝進出を決めた小原(撮影・田崎高広)
北京五輪王者キャロル・ハインを破り決勝進出を決めた小原(撮影・田崎高広)

<ロンドン五輪:レスリング>◇8日◇女子48キロ級決勝

 小原日登美(31=自衛隊)が、悲願の金メダルを獲得した。準決勝で北京五輪女王のキャロル・ハイン(カナダ)に競り勝つと、決勝では09年世界女王で昨年の世界選手権決勝でも争ったマリア・スタドニク(アゼルバイジャン)に2-1で勝利。この階級で日本に初めての金メダルをもたらした。04、08年と2度の五輪を逃して2度も引退。そこから復活した苦労人が、競技人生最後と決めた大舞台で世界一に輝いた。

 やっと、つかんだ。夢にまで見た金メダルを。何度も諦めたそのメダルが、小原の胸の前で光り輝いた。遠回りしたレスリング人生。集大成と位置づけた五輪で、その終着点に、最高の結末が待っていた。

 激しい練習を積んできた証しか、初戦前から右目は腫れていた。初めての舞台。不安も緊張も、すべてを受け入れて臨んだ。体は軽く、初戦からエンジン全開。たった48秒でフォール勝ちすると、続く3回戦はアンクルホールドを決めて2回転の大技で退けた。

 準決勝の相手は4年前の決勝で伊調千春を破ったハイン。だが、持ち前の攻撃力は止まらなかった。第1ピリオド(P)開始早々に左足へタックルを見舞って押し出すと、素早い動きで背後を取って2-0。第2P終盤は後ろに回られ1点を失ったが、その前に鋭いタックルを左足に2度決めた。決勝は昨年の世界選手権決勝でも争ったスタドニクに勝った。04年から始まった女子レスリング。2大会連続2位の階級で、初めて日本に金メダルをもたらした。

 長い道のりだった。00年から51キロ級で世界を制しながら、五輪で実施されない階級のためアテネ、北京には1度も出られなかった。「世界選手権で何連覇しても、五輪にはかなわない」。絶望の中で2度引退した。夢を諦め、48キロ級で挑む妹真喜子さんのコーチに回った。だが09年世界選手権で妹は8位。その夜、部屋で言われた。「日登美、48キロ級でやらない?」。妹との競合を避けていた階級への転向の道が開けた。くすぶっていた思いが再燃した。

 険しい道のりだった。51キロ級で過去6度、世界を制したはずのタックルが通用しない。大柄だった対戦相手は、階級を下げると小柄な相手に変わり、速さに戸惑った。普段56キロ前後あった体重の減量にも苦しんだ。10年広州アジア大会は調整に失敗して敗れた。

 その道を、10年に結婚した元選手の夫が寄り添い、とことんレスリングに付き合ってくれた。「普通、選手は家で競技の話なんてしたくないでしょうが、うちは聞いてやらないとダメなんです」と康司さん。居間で練習ビデオを回して一緒に検証。意見が食い違えばレスリングが始まった。「日登美は視野が狭い。こういうのもあるんだと体で分からせてやりました」。

 減量で苦しいとき、小原は料理をつくって気分を紛らわせた。大量に並ぶ食事。残れば食べたくなる気持ちを悟って、夫は全部平らげてくれた。「おかげで自分が太っていきました」という康司さんの優しさが、最高の結果につながった。

 「これが最後。復帰したときから五輪が最後だと決めていた」。数々の挫折を味わった長い道のり。母万理子さんは「この名前をつけて本当に良かった」と涙した。終着点のロンドンで、小原の頭上に日が登(昇)った。それは、とても美しかった。【今村健人】

 [2012年8月9日9時28分 紙面から]



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