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吉田V3!リオ挑戦も示唆/レスリング

金メダルを獲得し、父栄勝コーチを肩車する吉田。左は栄監督(撮影・田崎高広)
金メダルを獲得し、父栄勝コーチを肩車する吉田。左は栄監督(撮影・田崎高広)

<ロンドン五輪:レスリング>◇9日(日本時間10日)◇女子55キロ級決勝

 吉田沙保里(29=ALSOK)が決勝でトーニャ・バービーク(カナダ)を下し、前日の63キロ級の伊調馨に続いて日本女子2人目の五輪3連覇を果たした。全4試合で1点も失わない鉄壁な“大人”のレスリングを披露。「人類最強の男」アレクサンドル・カレリン氏が持つ世界大会12連覇に並んだ。9月の世界選手権(カナダ)でカレリン超えに挑み、4連覇が懸かる16年リオデジャネイロ五輪への挑戦も示唆した。最強女王の歩みはまだ終わらない。

 試合以上に力がこもっていた。照れるコーチの父栄勝さんの股にもぐると、吉田は一気に持ち上げた。どうしても五輪でしたかった父との肩車。後方宙返りと栄監督を投げるパフォーマンスで会場を沸かせた後、代表選考会で敗れて76年モントリオール五輪を逃した父に、その高みを見せた。

 「重かった。めっちゃ重くて『うぅっ』となった」。笑わせた後は感謝の言葉。「お父さんは五輪で初めてセコンドに入ってくれた。お父さんが行けなかった五輪で一緒に喜べたのは2度とないこと。最高に幸せ。心から幸せだと感じたので笑顔で終わりました」と、涙が一滴もない顔で感慨に浸った。父も「最高です。高かった」と喜んだ。

 試合前夜。最強を誇る女王も、不安と緊張の中にいた。目を閉じても寝られない。浮かぶのは対戦相手の顔。どう戦うか。そんなことばかり考えてしまった。「こんなに眠れないのは初めて。プレッシャーは、今までで一番強かった」。

 5月のW杯で19歳のジョロボワ(ロシア)に1590日ぶりに敗れた。4年前の北京前と同じ。しかし、今回は代名詞のタックルに迷いが出た。本番までたった2カ月半。日本選手団旗手の重責もあった。栄監督も「正直、五輪は難しいと思った」。断ち切ってくれたのは両親の言葉だった。母幸代さんからはメールで「勝負の世界に勝ち負けがあるのは当たり前。五輪で頑張ったらいいんよ」。栄勝さんには「小さいころのタックルを思い出せ」と。

 迎えた五輪。最初の2戦は動きが硬かったが、準決勝でジョロボワと再戦すると「燃えた」。両足タックルを返されたW杯と違って「返されないよう」片足に狙いを定めて飛び込んだ。最高の舞台で雪辱すると決勝では、昨年世界選手権決勝でリードする中、さらに欲張ったタックルを返されたバービークに、第1ピリオド(P)1分40秒、3点を奪う片足タックルを見舞った。第2Pもタックルで押し出した。圧倒。全4試合で1点も失わなかった。

 相手の研究をしたことがなかった女王は前夜、日付が変わるまで対策を練っていた。片足タックルへの変化も、頭を下げず返されまいとする姿も、今までと違った。「負けて気づかされた。余計なこともしないと。下手に攻めず、大人のレスリングができた。負けて勉強。その繰り返しで人は賢くなっていくんです」。

 五輪3連覇。そして世界選手権を含む世界大会でカレリン氏に並ぶ12連覇を果たした。9月には世界選手権がある。「超えたいよねぇ」。16年リオ五輪も「このまま勝てるんだったら、やってやろうじゃないかって気になりつつある」。暗闇を抜け出した女王には本来の明るさが戻っていた。まばゆいばかりの笑顔が、光っていた。【今村健人】

 ◆吉田沙保里(よしだ・さおり)1982年(昭57)10月5日、三重県津市生まれ。3歳のときに父の指導でレスリングを始める。久居高-中京女大(現至学館大)-ALSOK所属。アテネ、北京両五輪女子55キロ級金メダル。08年1月の女子W杯団体戦で負けるまで、01年から119連勝をマークした。今大会前まで五輪を含む世界大会は無傷の54連勝中だった。家族は父栄勝さん(60)母幸代さん(57)兄勝幸さん(34)兄栄利さん(32)。156センチ。血液型O。

 [2012年8月11日9時21分 紙面から]



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