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海老沼変わった判定生かせず銅/柔道

2度目の判定で白旗が3本上がり、準決勝に進出した海老沼(撮影・たえ見朱実)
2度目の判定で白旗が3本上がり、準決勝に進出した海老沼(撮影・たえ見朱実)

<ロンドン五輪:柔道>◇29日◇男子66キロ級

 柔道で前代未聞の事態が起こった! 男子66キロ級の海老沼匡(22=パーク24)と■準好(韓国)の準々決勝で、判定結果が覆った。1度は■に青旗が3本上がったが、畳の下の審判委員が審判団3人を呼びよせて、再判定となり、今度は海老沼に白旗3本が上がった。技の判定が変わることは多いが、試合の優劣の判定結果が覆るのはきわめて異例。昨年の世界選手権を制し、金メダル候補だった海老沼は続く準決勝で敗れたが、3位決定戦に勝って銅メダルを獲得した。

 前代未聞の混乱が起こった。1度は下された試合の旗判定が、覆った。2度目の判定の末、逆転で勝ち名乗りを受けた海老沼は、戸惑いながら■と握手を交わした。その■は、畳の上から下りようとしなかった。勝ち残った海老沼も首をひねる。「試合内容を覚えていないので負けたんだと思った」。川口孝夫国際審判員も「私の経験では、判定が覆るこんな状況は見たことがない」と話した。

 準々決勝。第3シードの海老沼と第6シードの■の争いは激しさをきわめた。5分間で決まらず延長突入。延長の1分22秒に、海老沼の小内刈りを審判団が有効とし、試合が決まったかに見えた。だが、技を判定する畳の下の審判委員3人の判断で取り消され、試合は続行された。そのまま両者ポイントもなく、最初の旗判定で審判団は3人とも、■の青旗を上げた。

 ここで大ブーイングが起きた。セコンドの中村コーチも両手を挙げ、篠原男子監督も抗議した。取り消されはしたが海老沼の小内刈りの印象が残り、海老沼優勢にも見えた。観客は足を踏み鳴らし、猛抗議。これに畳の下の審判理事も反応した。

 国際柔道連盟のバルコス審判主任理事は「審判委員は疑いの余地もなく白(海老沼)の勝ちだった。柔道の精神を守り、真の勝者が畳を下りる状況をつくるのが我々の役目」と、審判団を呼んでもう1度審議するよう意見した。再び定位置についた審判団が上げたのは、真逆の白旗3本。異例の逆転判定だった。

 00年シドニー五輪男子100キロ超級決勝で篠原信一がドイエ(フランス)に“誤審”で敗れるなど、微妙な判定と不満に対処するため、柔道では07年からビデオ判定を本格運用し始めた。ただ、全柔連関係者によると最終権限は審判団にあり、審判委員は意見する立場でしかない。それだけに今回の事実上の「訂正要求」は波紋を呼ぶ可能性がある。吉村和郎チームリーダーは「そもそも韓国に上がることがおかしい」としつつ「覆るなんて見たことがない」とあきれかえった。

 昨年の世界王者で日本男子最有力の金メダル候補だった海老沼は、異例の出来事で生きながらえた。だが、続く準決勝で優勝したラシャ・シャフダトゥアシビリ(グルジア)に隅返しで一本負け。3位決定戦はザグロドニク(ポーランド)に大腰で一本勝ちし、銅メダルを獲得したが「(準々決勝は)会場の皆さんに勝たせていただいたと思ったので、絶対に優勝しなきゃと思ったが、力が足りず申し訳ない。金メダルを目指していたので(銅では)意味がない」と謝った。海老沼も、異例の混乱に巻き込まれた被害者だった。【今村健人】

※■は十の下に日を2つ縦に並べ、十の縦棒が1つ目の日を貫く

 [2012年7月30日8時39分 紙面から]



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