「もう負けない」沢の予感／サッカー

＜ロンドン五輪・サッカー：日本２－０ブラジル＞◇３日（日本時間４日）◇女子準々決勝◇カーディフ

　ＦＩＦＡ（国際サッカー連盟）ランク３位のなでしこジャパンが、ロンドン五輪準々決勝でブラジル（同５位）を破り、０８年北京五輪に続く２大会連続の４強進出を決めた。攻守に活躍した大黒柱のＭＦ沢穂希（３３＝ＩＮＡＣ神戸）は「勝てる予感がする」と、頂点まで残り２試合に絶対の自信を見せた。準決勝は６日（日本時間７日）、聖地ウェンブリーでフランス（同６位）と対戦する。勝てば初の決勝進出となり銀メダル以上が確定し、日本女子サッカー悲願のメダル獲得がかなう。

　エース沢は試合終了と同時に、センターサークル内で両手でガッツポーズし、ほえた。監督、選手が最大のヤマ場と位置付けていた準々決勝を突破。沢は余韻に浸ることなく、メダルだけを視野にいれた。

　沢　ホッとした気持ちは１つもない。今日は自分でも頑張れたかなとは思う。でも、まだ何も手にしていない。今は北京五輪と同じところまで来ただけ。超、メダルがほしい。もしお金を出して買えるならと思っちゃうくらいだけど、でもお金で買えないから価値があるんだよ。絶対日本に持って帰るよ。大丈夫。

　昨夏Ｗ杯ドイツ大会の決勝米国戦前に、夢を見た。青の日本代表ユニホームを着てＷ杯を天高く掲げていた。それは正夢になった。今大会もビンビン感じるものがある。まるで夢の前兆を感じているかのよう。

　沢　今回も予感がします。結構当たるはず。もう負けない。あと２つ勝てる気がする。直前で悔しい思いをしたフランスだし、米国と決勝で戦えれば私のシナリオ通りです。

　この日の動きは、攻守にわたって抜群だった。劣勢だった前半２７分、ＦＫを得ると、ブラジルＤＦ陣がばたつく瞬間を逃さず、即断して縦に抜ける大儀見へパスを出す。以心伝心で沢からのパスを狙っていた大儀見は、約１５メートルドリブルして確実に流し込んだ。沢は真っ先に大儀見を受け止めて祝福した。「ナガ（大儀見）が準備していたのは見えました。セットプレーでの切り替えが遅れるというのは狙っていた。うちらがやられると嫌なところをついた」。

　判断がさえている。反則地点よりもやや前の位置だったが、転がってきたボールをわずかに左手で触って止め、すぐにスルーパス。「本当はもっと後ろだったんですけど、審判にも何も言われなかったので、スッと蹴っちゃった」。審判にも戸惑う間を与えず、沢の決断の速さが引きだした先制点だった。

　それ以上に気迫を込めたのが守備。ＦＷマルタを中心に破壊力抜群の攻撃陣に攻められても、危険なところには必ず沢がいた。９０分通してドリブルするマルタに必死に食い下がり、体を当て続けた。ゴール前の決定機でも体を投げ出し、シュートを体に当てた。

　ひとまわり大きな相手と正面衝突し、頭からピッチにたたきつけられた。「めまい症は外から強くぶつかっても再発なんてことはないみたい」。不安は完全に消え去っている。「本当に楽しくてしょうがない」と言うとおり、内的要因も心配ない。「（相手は）ドリブルでの切り返しがすごくて、こっちは何度もステップして守った９０分。おしりが痛い。割れそうだよ」。心地よさそうにさすりながらバスに乗り込んだ。

　０８年の北京と同じ４強にたどり着いた。「あとは北京の悔しさを知っている選手が、経験のない若手をどれだけ引っ張っていけるか。もうあの悔しさだけは繰り返さない」。沢がすべての情熱を注いで目指してきたもの、それはもう目の前にある。【鎌田直秀】

　［2012年8月5日9時19分　紙面から］