ボディーラッピング山手線に千里号

　アジア最速女王、山手線を走る！？　陸上女子短距離界のエース福島千里（２４＝北海道ハイテクＡＣ）を車体にデザインしたラッピング電車「千里号」が、ロンドン五輪の陸上開催中（８月３～１２日）、東京のＪＲ山手線を走ることが１０日までに分かった。日本陸連とスポンサー契約を結ぶ大手用具メーカー、アシックスの広告として登場。車内フロアがコースレーンになるなど、過去にない凝りようだ。１００メートル、２００メートルで昨年の世界選手権に続く準決勝進出を狙う福島にとって、「千里号」は大きな追い風となりそうだ。

　ロンドンを走る福島が、東京のど真ん中で電車になった－。複数の関係者によると、山手線を走る「千里号」は、ロンドン五輪の陸上がスタートする８月３日から登場。１１両編成（約２００メートル）の全車体の側面に福島の走る姿がデザインされる上に、車内のフロア（床）にはコースレーンが描かれ、競技場内の雰囲気まで醸し出すという。電車は１時間に１本ほどのペースで運行され、大会終了まで走り続ける。

　その広告費用は推定３０００万円を下らないが、１日の利用者数は３５５万人という日本経済の大動脈。その広告効果は計り知れない。日本国中が熱狂する４年に１度のビッグイベントとあって、毎回工夫を凝らした広告が登場するところだが、ある関係者は「ここまで手の込んだものは知らない。フロアにコースレーンなんて」と言う。

　これまでスポーツ選手の車体広告と言えば、サッカー日本代表を航空機にデザインした「ＪＡＬ日本代表サポーターズ号」が有名だ。ただ多くの人が日常的に目にできる点では断然、山手線の方が上。昨年の世界選手権（韓国・大邱）で日本人女子選手として１００メートル、２００メートルで初めて準決勝に進出した福島が、同じ「走る」ことをかけて、山手線をジャックする。

　その福島は、３週間後に迫った本番に向け、厳しい追い込み練習のさなか。極度の疲労から、予定していた今月８日の南部忠平記念の１００メートルを棄権した。今後は日本代表として１５日から山梨合宿に入り、その後はドイツでの最終調整を経て、ロンドンへ渡る。今回の五輪では、東京大会以来、実に４８年ぶりとなる女子４００メートルリレーの出場権を獲得。エースの福島に加え、１６歳の女子高生・土井杏南の存在もあり、これまでにない注目度の高さだ。

　福島は４日、北海道恵庭市で行われた壮行会で「北京（五輪）では、２０～３０メートルぐらいで『お～っ』と思ってもらえた。ロンドンではゴールした後も『お～っ』と思ってもらえるような走りをしたい」とあいさつし、サプライズを誓った。「千里号」効果もあって、日本国内に高まる期待感。そんな熱い思いが、ロンドンを走る福島の背中をぐっと押すに違いない。

　◆福島千里（ふくしま・ちさと）１９８８年（昭６３）６月２７日、北海道幕別町生まれ。帯広南商高３年の高校総体で１００メートル２位、２００メートル３位。０７年に北海道ハイテクノロジー専門学校に入学し、北海道ハイテクＡＣ入り。０８年に１００メートルで１１秒３６で当時の日本タイ記録をマークし、北京五輪の同種目に日本人として５６年ぶり出場。１０年アジア大会で１００メートル、２００メートルの２冠。１１年世界選手権は１００メートル、２００メートルともに準決勝進出。自己ベストは１００メートルで１１秒２１、２００メートルで２２秒８９（ともに日本記録）。家族は両親と兄、妹。１６５センチ、５２キロ。

　◆福島の今後予定　１５日から山梨での全日本合宿に参加し、２１日に東京で開催される日本選手団壮行会に出席する。２３日に日本を出発し、ドイツ・フランクフルトで直前合宿。陸上は８月３日からオリンピック・スタジアムで行われ、最初の種目の女子１００メートル予選は同日午後７時５分（日本時間４日午前３時５分）にスタートする。

　［2012年7月11日8時15分　紙面から］