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内村、じゆうちょうに夢中で描いて演じた

内村が小学生のころに書いた体操の技のイラスト
内村が小学生のころに書いた体操の技のイラスト

 体操男子で日本人初の五輪、世界選手権個人総合2冠を達成した内村航平(23=コナミ)が、小学校時代に脇目も振らず、描き続けたノートがある。「じゆうちょう」と表紙に書かれた何の変哲もないノートには、現在の内村が演技している「伸身コールマン」、「伸身コバチ」などの技の分解図が、山のように描かれていた。技を演じさせるために、肌身離さず持ち歩いたピンクパンサーの人形とともに、「内村ノーツ」に金メダルの原点があった。

 母周子さんは、正確な時期を覚えていない。しかし、黙々とノートに描き込んでいる航平の姿は、はっきり覚えている。「一心不乱でした。ご飯だよと声をかけても、耳に入らないようでした」。パンダの写真の表紙に「じゆうちょう」と書かれた内村ノーツ。驚異的な空中感覚の秘密が隠されていた。

 何ページにもわたり、技の分解図が鉛筆で描かれている。短い手足をつけた小太りの人形のような人が、無数の技を演じている。鉄棒なら「伸身コバチ」「伸身トカチェフ」などの離れ技。降り技の「伸身月面」「新月面」。今では内村の十八番といえる技が、小学生の時すでに頭の中でできあがっていた。

 内村は、どんな体勢になっても着地が乱れない空中感覚を「空中で、地面やバーなどすべてが見えて判断している」と話したことがある。それは「自分の中にもう1人の自分がいる感じ」。演技をしている内村をもう1人の内村が冷静に的確に観察している感覚だ。

 ノートに描かれた分解図は、まさにその象徴だ。自分が頭の中で描く技を投影し、ノート上の内村に演じさせる。それは、クラブの先輩から与えられたピンクパンサーの人形を動かし、技を学んでいたのと同じだ。ノートに描くのと同じように、周子さんが「コバチってどうするの?」と聞くと、いつもピンクパンサーに演じさせた。

 両親は92年に船舶用のコンテナで体操教室を始めた。00年に3階建ての自宅兼体育館を新築。同時に、内村の11歳の誕生日のプレゼントとして、約100万円をはたき、縦12メートル、横2メートルのトランポリンを購入した。そのトランポリンで、内村は無数の技を学んだ。

 今でもその名残がある。1日(日本時間2日)の男子個人総合決勝参加24人中最高の16・266点をマークした跳馬の助走の前、両手をまっすぐ前に出し、進む方向を定めた。一直線に走り無駄な力を省くためだが、それはトランポリン上をまっすぐ進むことから学んだ方法だ。

 ノートに夢中で描いていた技を、我を忘れてトランポリンで演じた。すでにノート上で演じていた技だけに、現実でもおもしろいように演じることができた。「楽しくて仕方がなかった」。五輪でも決して重圧を感じない。内村にとっては、五輪もノートやトランポリンの延長線上にすぎないのだ。

 ◆内村航平(うちむら・こうへい)1989年(昭64)1月3日、北九州市生まれ。3歳で長崎・諫早市に移り、両親が経営するクラブで体操を始める。15歳で単身上京。日体大に進学し、08年北京五輪では団体と個人総合で銀メダル。09~11年世界選手権個人総合3連覇を達成。両親と妹春日(はるひ)の4人家族で、全員が体操をする。160センチ、54キロ。

 [2012年8月3日8時55分 紙面から]



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